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『痴人の愛』について

皆さんは痴人の愛を読んだことがありますか?
読んだことのないそこのあなた、騙されたと思って一回読んでみてください。純文学は嫌いだとか難しい言葉はわからないという言い訳はいいので、さっさと読んでみてください。

話は逸れますが、この本、実はは私が初めて純文学がおもしろいと思った本です。
そもそも小説は大きく分けると『大衆文学』と『純文学』に分かれます。
大衆文学はミステリーや恋愛小説など、物語に重点を置き、対する純文学は文章の美しさに重点を置いています。
私は『痴人の愛』を読むまで大衆文学を好んで読んでいました。理由は簡単で、面白いからです。
東野圭吾の『白夜行』『加賀恭一郎シリーズ』、湊かなえの『告白』『母性』、森博嗣の『スカイ・クロラシリーズ』挙げればきりがありません。
対する純文学は、手に取っても途中でダレたり、読むのをやめてしまったりと、完読したことがありませんでした。

だからでしょうか、純文学は『つまらない』とか『難しい』ってイメージが私の中にもありました。
でも『痴人の愛』にはそんなものありません。もちろん昔に書かれた本なので多少難しい言葉は使われていますが、それも含めてものすごく面白いのです。特にM気質のある方にはお勧めです。

あらすじはある夫婦の出会いから現在までを、夫である譲治目線で、出来るだけ正直に、ざっくばらんに、有りのままの事実で書かれています。
正直この夫婦のことが羨ましく思えてくるほど、私は嫉妬してしまいました。
特に後半のナオミさん(妻)の行動は現代では批判の的(多分当時でも批判の的)ですが、相当やばいです。私もナオミさんみたいなことしてみたいと思いますが、たぶん無理です。というかナオミさんだから許される……

とまあ、あらすじだけを聞いても魅力あふれる物語なのですが、この作品の真骨頂はそこではありません。

とにかく文章が美しいのです!

説明はできません。とにかく美しいのです。

ためしに一文を引用させていただきますが、

彼女の息は湿り気を帯びて生暖かく、人間の肺から出たとは思えない、甘い花のような薫りがします。

どうですか、この美しさ。もはや言葉にはできません。どうしたらこんな文章が書けるのでしょうか。私の頭では到底思いつきません。

しかも、こんなに美しい文章が痴人の愛には最初から最後まで余すことなく詰まっているのです。もう文章を読んだだけで昇天してしまいそうになるほどです。

これ以上書くと止まらなくなりそうなのでこの辺で終わりにしたいと思いますが、とにかくまだ読んだことのない人は一度読んでみてください。きっと谷崎文学のとりこになるでしょう。


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