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『ネクスト・ゴール・ウィンズ』:幸せになろうよ

 スポーツ関係の映画・ドキュメンタリーを紹介するnote。今回は、2024年2月23日公開の映画『ネクスト・ゴール・ウィンズ』を紹介したいと思う。

「世界最弱」代表チームが目指す1ゴール

 本作は、2001年の日韓W杯予選において「31-0」で敗戦する等、FIFAランク最下位にいた米国領サモア代表チームが、国外から招聘した新監督とともに公式戦初ゴールを目指すという実話に基づく物語である。

 同作品の原案にあたるのは、2014年のブラジルW杯一次予選に臨む米国領サモア代表チームに密着したドキュメンタリー映画『ネクスト・ゴール!世界最弱のサッカー代表チーム0対31からの挑戦』である。筆者も7年ほど前にCS放送で放送されたものを鑑賞し、ドキュメンタリーであることに驚かされるほど、個性豊かな登場人物たちによるドラマチックな内容だったため、劇映画として製作されるというニュースに特に驚きもなかった。

伝道師の道程から、幸福度を考える物語へ

 原案となるドキュメンタリー映画が文句無しにドラマチックな内容であり、本作『ネクスト・ゴール・ウィンズ』の製作者たちも同作品に対するリスペクトもあっため、タイカ・ワイティティ監督の持ち味も見せて変化をつけた作品に仕上げてきた印象を受ける。
 代表チーム強化のために国外から招聘したトーマス・ロンゲン監督(マイケル・ファスベンダー)に関する描写が脚色ポイントであるが、これには布石があった。鬼軍曹な部分は変わりないが、サッカー伝道師の顔を持っていた実際のロンゲン監督と違い、本作ではロンゲン監督個人の【幸福度】に視点を置いた物語になっていた。
 プロの選手・監督として結果と向き合ってきた彼にとっては、サッカーはストレス・怒りの発生源になっている。一方、彼が指揮することとなる米国領サモア代表チームの選手たちは、サッカーの練習・試合で落ち込むことはあっても、自分らしさ・明るさを失われない。サッカーに対して相反する感情を抱く双方は、ONE TEAMになれるのか?ONE GOALを奪うことができるのか?物語の結末は映画館でウォッチしてほしい。(原案のドキュメンタリー映画も是非見てほしい)

サッカーは人を幸せにするのか?

山東泰山に2-4で敗れた川崎フロンターレ

 本作の鑑賞を終えて、数年前に話題になった「サッカーファンは幸せにならない」という研究結果を紹介したニュース記事のことを思い出した。

 サッカー観戦を長年続けている筆者だが、この数日前に応援する川崎フロンターレの手痛い敗戦を現地観戦したばかりだった。後半途中に訪れたゴールによる絶頂の瞬間を味わったと思えば、終了直前の失点で不幸のどん底に落とされる。こうした苦しい経験を何度も味わっている自分は、普通の人よりも幸福度のアップダウンが激しい日常を過ごしていると思う。
 では、すっかり日常の風景となったサッカー観戦から離れること=私個人の幸福度の安定維持に繋がるのかといえば、多分違うだろう。社会生活、あるいは家族との時間にだって浮き沈みはあるわけで、そうした時にピッチ上で全力で戦う姿に勇気づけられたり、劇的なゴール・勝利に元気をもらったことは沢山ある。良い時も、悪い時も、励まし合える存在なんだと思う。
 両作品で描かれる米国領サモア代表チームの選手たちは、監督の指導を通じて上手くなったわけではない。しかし、目標=初ゴールに向けて邁進する頑張るチームに変化していく。その姿に自分の胸を熱くしてくれた。この胸の熱さこそ、幸せのエナジーなのかもしれない。

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