「◯◯大賞」の決め方
「〇〇大賞」という言葉からパッと思い浮かぶのは、「日本レコード大賞」「全日本仮装大賞」「流行語大賞」などだろう。この3つに共通しているのは、いずれもその人気に陰りが見えることである。
一番目の「日本レコード大賞」は、かつては大晦日にテレビで放送されていた。子どものころは、
(誰が大賞に選ばれるのだろう?)
と、テレビの前で緊張しながら観ていたものだ。
けれども、歌手の所属事務所やレコード会社などの意向が選考に少なからぬ影響を与えているようだ、ということが素人目にも明らかになるにつれて、人々の関心は薄れていったように思う。
近年は放送日が12月30日になったことで、大晦日の夜になってから、
(あれっ、「レコード大賞」ってもう決まってたんだ)
と気づくことも多い。
二番目の「全日本仮装大賞」の初放送は、1979年(昭和54年)だそうだ。当初は人気を博していたが、マンネリ化からか視聴率は低下している。また、番組の顔ともいえる司会者・萩本欽一さんの高齢化も、この番組が以前のような勢いを失った原因の一つだろう。
この2年間ほどは放送が休止されていたが、今年(2024年)の2月に最新回が放送されている。しかし、次回があるかどうかは萩本さんの体調や気持ち次第だろう。
毎回、仮装の審査は10名の著名人が務めている。それぞれ持ち点が2点ずつで、20点満点中の15点以上を獲得すると合格になるというシステムだ。しかし、「あと1点で満点になる」というときなどは、司会者や会場の空気に押されて、当初は辛い評価をしていた審査員が加点をする場面がよく見られる。また、子どもや家族による仮装に対する評価が総じて甘く見えるなど、審査の妥当性には疑問が残る。
最後の「流行語大賞」に至っては、
「野球好きのオッサンたちが居酒屋で決めているのではないか?」
と思わざるを得ない。
なにしろ、この10年間で5回も野球関連の言葉が大賞に選ばれているのだ。
これらのなかで大多数の人が納得できそうなのは、2021年の「リアル二刀流/ショータイム」ぐらいだろう。しかし、それでさえ2013年の「倍返し」などに比べると弱い。
2016年の「神ってる」に至っては、
「流行ってる?」
と聞き返したくなるほどだ。
これら3つの「大賞」の人気に陰りが見られる原因は、「マンネリ化」とともに「審査の信頼性」にもあるのではないかと思う。
そんななかで近年、存在感を増しているのが「本屋大賞」である。
今回で21回目となる「本屋大賞」の特徴は、全国の書店員が「いちばん売りたい本」を投票によって選ぶところである。
最近の書店には、本の近くに書店員の感想や推薦文を載せた手書きの「ポップ」が添えられていることが多い。「ポップ」を参考に本を買うお客も多いため、その内容には責任も伴う。「本当に面白い本」「人に勧めたい本」を選ぶことに関して、書店員の方々は鍛え抜かれたプロなのだ。
今回の受賞作である宮島未奈さんの『成瀬は天下を取りに行く』は、私も読んだことがある作品だ。書店で買ったきっかけは、やはり「ポップ」だった。
私も大好きな本なので、大賞の受賞はうれしい。けれども、仮に他の候補作が選ばれていたとしても、それには納得をしていただろうと思う。多くの新刊本と身近に、そして真剣に接している全国の書店員たちが、「いちばん売りたい本」を投票によって決めているのだ。一人ひとりの好みの違いはあるとしても、その集合知としての判断には説得力があるのである。
対象と「身近に」に接している人たちによる本気の「集合知」であれば、その結果には納得ができる。しかし、その逆であれば話は別だ。納得することは難しい。
「それって、先日の中教審・特別部会のことを念頭に置いているんですか?」
と訊かれれば、
「はい」
と答えるしかない。
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