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45歳・教員の「越境学習」 ~日本財団での1年間~(34)

「プロデューサー」としての助成事業(中)

 約100件の助成金申請に対する審査を任されたわけだが、無論、そのすべてに「OK」を出すわけにはいかない。

 先日の記事でも書いたように、「先駆性・革新性」「計画性・実現性」「波及効果」などが一定の水準に達していなければ、助成金を交付する意味がなくなってしまう。言ってみれば、基準に達しているのか否かという「絶対評価」をすることが必要になってくる。

 その一方で、「公益・ボランティア」関連の事業で使うことができる予算には上限がある。優先度が高いものから「相対評価」による順位づけをして、予算の範囲内に収めなければならないのだ。


 審査の第一段階は、各団体からの申請書類を読み込むことである。残念ながら、この段階で半数以上が「選外」になってしまうといってよいだろう。

 たとえば、
・学童保育で使っているエアコンが古くなっているので新調したい。
・地域の環境調査に使う備品や消耗品を購入したい。
 といった受益者が組織内部に限定されてしまう申請については、優先度が低いと判断せざるを得ない。

 また、
・アマチュア交響楽団の結成○周年に記念のCDを作成して配布したい。
・郷土史の研究会として、これまでの成果を冊子にまとめたい。
 といった申請も、そうした成果物がどれだけ活用されるのかといえば大きな疑問が残ってしまい、とても「OK」は出せない。

 さらには、組織の信頼性という点で、これまでに活動実績がほとんどないところや、明らかに営利目的ではないかと思われる団体も除かざるを得なくなる。

 書類審査を経て残った団体に対しては、電話で補足の質問をしたり、実際に現地を訪問して関係者とヒアリングを行ったりする。その際に重視をするのは、事業の先駆性や革新性などとともに、その実現性や継続性、発展性である。

 たとえば、
・学校で○○のワークショップを行いたい。
 という場合、過去にどこかの自治体の教育委員会と連携して事業を行ったという実績があれば実現性が高そうだと判断できるが、そうしたコネクションがない場合には評価が低くなってしまう。

 また、日本財団が行うことは、基本的には「立ち上げ支援」である。数年後、その事業が自走しているイメージがもてたり、さらなる発展性が期待できたりすれば優先度が高くなるのだ。


 こうした過程を経て約20件ほどに絞り込み、チーム内での協議や理事会での承認を経て、最終的に14件の事業が正式に採択をされることになった。
 それらは、
・「風呂敷」を通して子どもたちに和文化とエコを伝える出前プログラム
・子育て中の母親たちが参加できるブラスバンド「マミーズブラス」
・小学生にユーモアとコミュニケーション能力を育む「落語教室」
 などである。

 2007年度には、公益・ボランティア関連の事業だけで540件が採択されている。私が審査に関わったのは、そのうちの3%以下に過ぎない。それでも、日本財団で過ごした1年間のなかで、小さいながらも確かな足跡を残すことができたのではないかと自負をしている。(つづく)

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