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「賠償金」ではなく「見舞金」?

 3日前から3回にわたって、中央教育審議会の部会で議論されている「教職調整額」の問題について書いてきた。

 この問題は、学校関係者の間でも大きな話題になっている。本日・4月17日付の毎日新聞にも、次のような記事が載っていた。

「ブラック職場」と言われる公立学校教員の給与制度が半世紀ぶりに見直されることになりそうだ。その案は、時間外勤務手当(残業代)を支払わない代わりに支給される「教職調整額」の割合を現行の給与月額4%から10%以上に引き上げるというものだが、教育現場や有識者の反応は芳しくない。「給料は今のままでいいので業務を減らして」。聞こえてくるのは、人員増や業務圧縮を求める切実な訴えだ。

「給料は今のままでいいので業務を減らして」
 というのは、教育現場で働く教員たちの切実な願いだろう。知人からは、
「お金について議論をする前に、業務を減らすことについて真剣に話し合ってもらいたい」
 という声も聞く。

 ただし、同特別部会では業務削減も含めた教員を取り巻く環境全般に関する検討も行っている。「教職調整額」の件と合わせて、「教員の長時間労働の是正」に向けた真剣かつ具体的な協議を期待したい。


 先ほども紹介したように、
「給料は今のままでいいので業務を減らして」
 というのは教員の切実な声だろう。

 けれども、
「給与増より仕事減」
 という二者択一ではなく、
「給与増も仕事減も」
 という考え方が必要だろう。

 とかく、教員がお金の話をすることは憚られるような雰囲気がある。けれども、教員は「消費者教育」や「金融教育」にも携わっているのだ。特に、時間外勤務の対価として支払われるべき「残業代」のことについては、業務削減の話と並行してもっと堂々と語ったほうがよいと思う。

 前回の記事では、「教職調整額」が4%から10%に上がったと仮定して、東京都の初任者が受け取る増額分を試算してみた。
・教員(大卒)の初任給:265,100円
・増額(6%)分:約15,900円

 今回は、「もしも実態通りに『残業代』が支払われたら」という場合を想定して試算をしてみたい。

 時間外勤務手当の額(残業代)は、1時間当たりの賃金(時給)に25%分を上乗せしたものが基準となる(ただし、1か月の残業時間が60時間を超えた場合は、上乗せ分が50%になる)。

 1日に8時間、週に20日間働くとすると、東京都の初任者の場合、
 265,100(円)÷8(時間)÷20(日間)=1656.875(円)
 時給は「約1,657円」という計算になる。これに1.25を掛けた「約2,071円」が基準額になるのだ(60時間を超えた分についは、1.5を掛けた「約2,486円」が基準額となる)。

 仮に「過労死レベル」と呼ばれる「月80時間」の残業をしたとすると、
 2,071(円)×60(時間)=124,260(円)
 2,486(円)×20(時間)=  49,720(円)
 80時間分を合わせると「約173,980円」の「残業代」を受け取るという計算になる。

「教職調整額」が維持された場合、その割合が10%になったとしても、給料の1割分だから、東京都の初任者の場合には「約26,510円」だ。80時間分の「残業代」とは桁が違い、約15万円の開きがある。

 これは、あくまでも初任者の場合だ。50代のベテランだと、それぞれの額は倍程度になるのである。


 教員の方には俄かに信じられないかもしれないが、これは企業や役所で働く人には常識なのだ(無論、企業や役所にも「サービス残業」というものはあるだろうが)。

 私が教育委員会に勤めていた当時、繁忙期の人事部門では、
「残業代を含めると、20代の職員の手取りの額のほうが50代の部長よりも多い」
 という「逆転現象」が起きていた。

 年度末の人事異動の時期には、その「当てはめ作業」のために担当部署には膨大な量の業務が発生する。月の残業が「100時間」を超える職員も珍しくない。

 当然、上司は「業務量」と「職員の心身の状態」を見極めながら超過勤務の可否を判断しなければならない。万が一のことがあったとき、労務管理上の責任が問われるからだ。だから「残業代」も実態どおりに支給されていた。

 一方、部長や課長などの管理職には、月に数万円の管理職手当が支給されるものの「残業代」は発生しない。そのために「逆転現象」が生じるのだ。


「残業代」とは、本来の労働時間以外に働かせたことに対する「賠償金」のようなものだろう。

 それに対して、「教職調整額」は「見舞金」というレベルだ。

 このまま「教職調整額」の増額によってこの問題に決着をつけようとすることは、無理矢理「示談」にもっていこうとする辣腕弁護士のやり方と変わらないと思う。

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