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スコット・ノーウッドの悲劇(下)

(前回のつづき)
 致命的なミスを犯した選手を温かく迎える地元のファン。
 だが、物語はそんな「美談」で完結したわけではなかった。
 ノーウッドは翌シーズンもビルズでキッカーを務めたが、スーパーボウルでのミスがトラウマになったのか勝負所での失敗を繰り返し、結局、1992年のシーズンオフにチームを解雇されることになる。
 彼はそのままフットボール界から去っていった。
 一方、ビルズは91年から4年連続でスーパーボウルに駒を進めたが、ことごとく敗れ去った。
「今年こそは」
 というファンの期待は落胆に変わり、やがてチームに対する怒りへと変化していく。
 そして、その怒りの矛先は一人の男へと向けられることになるのだ。 「あのとき、ノーウッドの野郎がキックを決めていれば・・・」

 ヴィンセント・ギャロ監督・主演の映画『バッファロー’66』(1998年)は、タイトルのとおりにビルズのホームタウン・ニューヨーク州バッファローが舞台である。そのストーリーはこうだ。

 ビリー・ブラウン(ヴィンセント・ギャロ)はバッファローで生まれた。
 父親は短気で、すぐにビリーのことを怒鳴りつける。母親のほうはフットボールに夢中で、ビリーを出産した日に地元のビルズが優勝を決めたため、 「お前のせいで大事なゲームを見逃した」
 と、今でもビリーのことを怒っている。
 そんな家庭でビリーは育った。
 成長したビリーは、スーパーボウルの勝敗をめぐる賭けで、借金をして地元のビルズに1万ドルを投じる。だが、ビルズは勝てなかった。
 借金を返す当てがないビリーは、他人の罪をかぶって刑務所へ入るという取引をし、5年間の服役をする。
 刑務所に入ったビリーは、そこで、
「ビルズが負けたのは、スコット・ウッドという選手がわざとフィールド・ゴールを外したからだ」
 ということを知る。
(自分がこの刑務所にいるのはスコットのせいだ)
 そう考えたビリーは、出所したら彼を殺そうと決意する。
 5年後。ビリーは出所し、引退したスコット・ウッドの居場所を捜し当てる。
 そこで出会ったスコットは醜く太り、トップレス・バーのオーナーになっていた・・・。

 スコットのモデルが、ノーウッドであることは明白だ。
 これが実際のノーウッドの姿に近いのか、それともまったくのフィクションなのか・・・。
 たしかに、彼はプロの選手として致命的なミスを犯し、フットボール界から去っていった。だが、その後の人生で「逆転のフィールドゴール」を決めるチャンスは、まだ残されているはずなのだ。

「実際のノーウッドは引退後にビジネスマンとして成功し、幸せな家庭を築いている」という噂もある。
 できれば、その噂が真実であることを願いたい。

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