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笑って笑って


※今回は、重く暗い内容になっております。素直に書いてみたら、こうなってしまいました。ご了承いただける方は、先をお読みください。すみませんが、よろしくお願いいたします。




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 わたしは、人に自分の胸の内を話すことが苦手だ。本当の自分がわかってしまったら、きっとその人はわたしを嫌いになるだろうって、思っていた。

 嫌われたくないと思った最初の相手は、母だった。母に嫌われてしまったら、わたしは生きてはいけない。母が好きだったし、とても恋しかった。

 7、8歳までのわたしは、天真爛漫な子どもだった。いたずらもした。叱られても、へっちゃらだった。頑固もの、やりたい放題。きっと、母は大変だったはず。

 いつからだろう。叱られるのが怖くなった。母に嫌われたらどうしよう、と思った。途端に、周りの人の目を意識するようになった。わたしはわたしを偽るようになり、「よい子」になろうとした。そんなことは思ってはいけないと、感情を押し込めたり、自分の気持ちをないがしろにしてしまいがちになった。

 「よい子」になったわたしを、母はたいそう喜んでくれた。それから、その「よい子」の仮面を脱げないまま、大人になった。

 結婚して、娘が産まれた。娘は天真爛漫で頑固。小さなときのわたしとよく似ていた。自我がはっきりとしている。手を焼いたが、伸び伸びと育った。それから、息子が産まれた。

 息子は、繊細で不安を感じやすいたちだった。それは、今のわたしに似ている。丁寧に丁寧に育てたけれど、周りの大人の顔色を伺う子になった。そうさせたくはなかったけれど、「よい子」の仮面をつけるようになってしまった。

 わたしは、何度もその仮面を外そうとしたけれど、息子は周りから請われるように走り続け、そして燃え尽きた。12才のときだ。

 それから、ゆっくり、ゆっくり、息子は変わっていった。優等生でプライドが高く、真面目で一生懸命…それを全部捨てて、ありのままの自分になっていった。わたしは、何もしていない。ただ、いつも隣にいただけだ。気づいたら、息子は16才になっていた。

  もう、息子は「よい子」じゃない。それが、わたしはとてもうれしい。今の息子は、冗談をさらりと言い、サッカーが大好きで、よく笑う、本来の息子になったようだった。

 あれ?わたしは?
 わたしはどうだろう。

 去年のこと。感情が爆発するときがあった。周りを巻き込んで、大きな迷惑をかけた。自分のことなのに、どうしてそんなことをしでかしてしまったのか、よくわからない。

 落ち着いた後、わかることだけを束ねて考えて、自分なりに謝って、許してもらった。こんな優しい人たちに、迷惑をかけてしまって、本当に申し訳ないと思った。本当は、そのグループを去るのがいいのだろうけれど、身勝手でもそこに居続けたかった。

 何か、わたしは間違っている気がする。わたしはまだ「よい子」の仮面をつけているんじゃないだろうか。そう気がついたら、猛烈に気持ちが悪くなった。もう、やめてしまいたい。感情を出そう。ありのままでいいよ。

 でも、でも、嫌われるのが、とっても怖い。どうしたらいいのか、わからない。わたしは、子どものとき、あるがままの自分を、まるごと認めてもらった経験がない。ありのままの自分に、全く自信がない。

 こんなわたしだから、こんなわたしだから、ダメなんだ。わたしはわたしを強く責めた。時々、こうなる。そうしたら、急に腰が痛くなった。ふと、こんな情景が頭に浮かんだ。

 言葉は、鋭いつららみたいだった。わたしが、小さなわたしを傷つけている。かわいい手が赤い血に染まる。わたしは悲鳴を上げた。なんてこと!なんてことをしてるんだ、わたしは!

 ごめんなさい。ごめんなさい。もう二度としません。自分を責めるって、小さなわたしを傷つけることだったんだね。そのままのわたしを否定することだったんだね。

 わたしは小さなわたしを抱きしめて、泣いた。つららはなくなった。傷は簡単に癒えない。でも、小さなわたしは、大丈夫だよって、わたしに言うんだ。こんな子をどうして、何度も何度も傷つけてしまっていたんだろう。

 それから、自分を責めるのをきっぱりやめた。そうしたら、腰の痛みもなくなった。

 嫌われるより、自分が自分らしくない方が辛いんじゃないかな。このところ、小さなわたしが出てこようとしているのを感じる。ずっと、閉じ込めていた、ありのままの自分。もう、解放したい。わたしはわたしになりたい。

 わたしのことはわたしが決める。でも、周りの人のことをわたしが決めることはできない。だって、その人の気持ちはその人のものだもの。

 去る年末、それがすとんとわかった。長年、わたしが真心を込めて接していた人が、実はわたしを嫌っていたとはっきりわかったから。わかってしまったら、どうして今まで気づかなかったんだろうなぁと思うくらいだ。

 ショックは全く受けなかった。なんだか、スッキリとした。あれ?嫌われても、大丈夫だよ。あとは、わたしがどうしたいか、よくよく考えてみよう。まずは、距離を置いた方がいいね。

 大丈夫だった。あんなに怖かったのに、平気の平左だった。何を一体わたしは恐れていたんだろう。

 勢いに乗ったわたし、思い切って、このことを母に話してみた。もしかしたら、母に説教をされるかもしれない。叱られるかもしれない。でも…

 母は全てを聞いてくれ、一言。

  「あんたも大変だったんだなぁ。」

 何かが溶けていった。胸の中があったかい。わたしの中の小さなわたしが笑いながら、クルクルと踊っている。

 あぁ、これからは、この子が笑うように、過ごしてゆこう。



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