松下幸之助と『経営の技法』#185

8/18 初段の商品

~なぜ初段の商品を二段に、さらに三段、四段にしようとしないのか。~

 どこの会社でもそうだと思いますが、やはり研究部、開発部というようなところにいる人は、その道の達人といわれる人です。そういった人が研究し開発して、ようやく1つの商品ができるわけです。ですからその商品は最初から売り物になるものです。碁や将棋にたとえると、初段の資格があるものだと思います。一人前の商品だということになって、一応は売れていくわけです。
 しかし、一応は売れていくからこれは商売になる、といって事をすませていてよいのかどうか、ということです。現在ではそれで事をすませている傾向がやや多いのではないか、という感じがします。単に売れているからそれでいいと考えてはいけない、ということを私は改めて言いたいのです。なぜ初段のものを今度は二段にしようと考えないのか。そしてさらにそれを三段にする、四段にすることによって名人にまで持っていく。そういうことを絶えず考えていく必要があるのではないかと思います。
(出展:『運命を生かす』~[改訂新版]松下幸之助 成功の金言365~/松下幸之助[著]/PHP研究所[編刊]/2018年9月)

1.内部統制(下の正三角形)の問題
 まず、社長が率いる会社の内部の問題から考えましょう。
 これを、商品戦略や市場戦略の観点から見ると、松下幸之助氏の発言は、価格で競争するのではなく、品質で競争する戦略の選択と見れます。一度、価格競争に嵌ってしまうと、多少品質を上げても、なかなかその点を評価してもらえない状況になりますので、価格競争に陥ることなく、品質競争で戦っていく方針を明確にすることが必要です。
 そして、この市場戦略の観点を前提に、内部統制や組織管理の観点から見た場合、従業員の意識やベクトルを、価格競争ではなく品質競争のベクトルに合わせる必要があります。
 そこで、松下幸之助氏は、「初段」で満足するのではなく、二段、三段、四段を目指せ、という方法で、品質競争である(価格競争ではない)ことを伝え、浸透させようとしています。内部統制の問題として見た場合、会社組織を動かすことや、会社組織全体のベクトルを合わせることは、組織体系や指揮命令系統を作るだけでは徹底できず、社風や企業風土、経営方針など、様々なツールを駆使して行うべきことです。経営者自身も、意識的に情報発信をくり返すことでその一翼を担わなければならないところであり、ここでの松下幸之助氏の発言も、その役割を果たすべき発言です。

2.ガバナンス(上の逆三角形)の問題
 次に、ガバナンス上の問題を検討しましょう。
 投資家である株主と経営者の関係で見た場合、松下幸之助氏から学ぶ経営者の資質は、ブレない経営モデルや社風を作り上げることと、それを自ら先頭に立って浸透させるリーダーシップである、と評価できるでしょう。もちろん、採用すべき経営モデルは、松下幸之助氏が採用したような経営モデル(従業員の自主性や多様性を重視するモデル)でないかもしれず、市場戦略としても、松下幸之助氏が採用したような品質競争でないかもしれませんが、選択した経営モデルや市場戦略を組織として徹底させる統制力やブレない姿勢が、経営者に求められるのです。

3.おわりに
 人によっては、回りくどい言い方をしている、と感じるかもしれません。
 けれども、会社の中で同じイメージを共有することは、ベクトルを合わせるための第一歩です。そして、イメージを共有する方法は、抽象的な言葉を使っていたは駄目です。たしかに、抽象的で正確な言葉の方が間違いがないでしょうが、イメージが伝わりません。上手にたとえ話を使いこなすことが、イメージを共有する秘訣です。
 松下幸之助氏の言葉にはたとえ話が多く、そのために真意の解釈が分かれてしまうことがありますが、その言葉が出た状況や聴衆を重ね合わせれば、どのようなイメージを伝えようとしていたのかが理解できる場合があります。イメージを伝えるために、たとえ話をツールとして使いこなしている点も、松下幸之助氏から学ぶべき点ではないでしょうか。
 どう思いますか?

※ 『経営の技法』の観点から、一日一言、日めくりカレンダーのように松下幸之助氏の言葉を読み解きながら、『法と経営学』を学びます。
 冒頭の松下幸之助氏の言葉の引用は、①『運命を生かす』から忠実に引用して出展を明示すること、②引用以外の部分が質量共にこの記事の主要な要素であること、③芦原一郎が一切の文責を負うこと、を条件に了解いただきました。


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