表紙_最終_

経営の技法 #1

1-1 2つの会社組織論
 会社組織論は、大きく分けると、株主と会社との関係を規律し、ガバナンスの実効性を問題にする「上の逆三角形」と、会社内部の体制を規律し、内部統制の実効性を問題にする「下の正三角形」がある。この両者の優劣を問題にするのではなく、統一的に把握することが肝要である。

2つの会社組織論の図

1.概説
 本書では、ガバナンスを上の逆三角形、内部統制を下の正三角形と定義します。
 上の逆三角形から見てみましょう。
 これは、スペイン国王とコロンブスの関係に例えられます。株主と経営者の関係であり、会社法が規律する領域です。所有と経営が分離され、株主は、カネ(予算・決算)と人(役員選解任)だけで経営者をコントロールしますが、経営者は株主に対して忠実義務を負います。
 次に、下の正三角形を見てみましょう。
 これは、コロンブスが率いるサンタマリア号等、3艘の船団の乗組員に例えられます。会社と従業員の関係であり、労働法が規律する領域です。従業員は会社の手足であり、会社は従業員を、カネ(給与・賞与)と人(人事権)によって直接コントロールしますが、従業員が会社に対して負う義務は、善管注意義務です。

2.なぜこの形に思い至ったか
 以前から、特に会社法系の弁護士達が、コーポレートガバナンスが万能であるかのように議論していたことに違和感がありました。
 そして、自分自身が法務部長を経験するなど、管理職として会社組織の運営に関わるようになり、会社内部の話は、会社法系の弁護士達には分からない世界である、と気づきました。
 実際、自分自身が社外弁護士だった時も、「ここから先は、会社自身のご判断ですね。」と、自分たちが深入りせず、会社に判断させていました。
 そこで、当初は一つの大きな正三角形の上部に、取締役会や監査役会など、会社法の定める機関、大きな正三角形の下部に、会社各部門を置いた図をイメージしていました。
 けれども、違和感がぬぐえません。
 そのとき、会社法の構造をJILA(日本組織内弁護士協会)で説明する機会があり、所有と経営の分離の話をする際、とっさにスペイン国王とコロンブスの関係を例え話としました。話をしながら、会社法の問題と労働法の問題、ガバナンスの問題と内部統制の問題、など、それまで上手に整理できずにいた問題が、一挙に整理できました。
 その後、数年間、いろいろな人にこの話をして、モデルとしてかなり説得力がありそうだと手ごたえを感じていたところ、久保利先生、野村先生にも評価していただき、共同執筆の話に広がりました。この2つの三角形のモデルが、今回の出版の原動力になったのです。

3.おわりに
 書いたり喋ったりしながら概念が整理されていき、自分自身も驚く新たな発見が、たまに発生するのですが、2つの三角形を組み合わせる整理も、まさにたまに発生する発見でした。

※ 『経営の技法』に関し、書籍に書かれていないことを中心に、お話していきます。
経営の技法:久保利英明・野村修也・芦原一郎/中央経済社/2019年1月


この記事が参加している募集

コンテンツ会議

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?