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松下幸之助と『経営の技法』#192

8/25 情報を生かす

~集めた情報に的確に対応できるか。情報化の推進には経営力が欠かせない。~

 例えば「情報化の推進」ということは、これからの時代にあっては欠かすことのできないものでしょう。しかし、いかに情報を集めても、それに的確に対応できる経営力がなくては、その情報も無に等しいし、場合によっては、情報化ではなく情報禍というようなことにもなりかねません。
(出展:『運命を生かす』~[改訂新版]松下幸之助 成功の金言365~/松下幸之助[著]/PHP研究所[編刊]/2018年9月)

1.内部統制(下の正三角形)の問題
 まず、社長が率いる会社の内部の問題から考えましょう。
 例えば、全社に業務を横断的に管理する新たなシステムを導入する場合をイメージしましょう。財務情報、人事情報だけでなく、取引先や自社技術、特許、契約書から、全従業員のメールのやり取り、インターネットの利用状況まで、全ての管理を、クラウドソーシングし、自社システムのメンテナンスの負担の減少とセキュリティーの最新化を狙うもので、非常に野心的な冒険となります。
 この場合、失敗するであろう体制やプロセスは、IT開発部門に全てを任せきってしまう方法です。
 なぜなら、このようなプロジェクトの場合には、通常の開発業務と異なる要素があるからです。何が異なるかというと、ユーザー部門(開発されたシステムを実際に利用する部門)の要望を全て受け入れるわけにはいかないからです。これは、自由に機能設計できる自社開発ではなく、既製服のように、ある程度仕様の決まっているクラウドサービスを活用することと、それまでバラバラだったシステムやデータを関連付けて処理するために、他のシステムや処理工程に合わせる作業が必要となること、などから、ユーザー部門に「諦めてもらう」場面が多くなるのです。さらに、特に後者との関係では、それまで関連性のなかった業務が連結されることにより、関連付けられる部門同士で決めなければならないルールが、システムの仕様以外の面でも発生しますので、IT開発部門の調整能力を超えてしまうのです。
 したがって、全部門が協力しなければならない状況、すなわち従前の「オーダーメード」よりも少し不便になる「既製服」「イージーオーダー」を受け入れてもらえる状況にするために、①これを全社プロジェクトとして位置付け、各部門の正式な協力を得られる体制にするとともに、②全従業員に対して、プロジェクトの意義を理解して、多少の不便でも受け入れるような啓蒙活動を行い、①を後押しできるようにすることが、特に重要になります。簡単なシステムの仕様の変更があるだけでも、使い勝手が悪くなった、等という不満は必ず発生するからです。
 もちろん、担当部門を設置し、そこに対応を任せることは、組織的な活動の上で当然のことなのですが、経営との役割分担を見極め、必要な対応をすることが、経営力の1つとして必要となるのです。

2.ガバナンス(上の逆三角形)の問題
 次に、ガバナンス上の問題を検討しましょう。
 投資家である株主と経営者の関係で見た場合、経営者なりのスタイルによって、上記のような案件の進ませ方も異なってくるでしょう。経営者自らが直接リードし、システムの仕様や進め方を決めてしまい、各部門は基本的にその内容で受け入れざるを得ないような場合には、逆に、少しユーザー部門や従業員の意見も聞くべき場面が増えるかもしれません。
 他方、上記の例のように、担当部門や従業員に仕事を任せ、どんどん権限移譲するタイプの場合には、自ら前者を巻き込むように動くべき場面が増えるでしょう。
 このように、経営者の資質として見た場合には、それぞれのスタイルがはっきりしている(ブレない)だけでなく、逆に、ときに柔軟であることが、1つのポイントになることがわかります。

3.おわりに
 松下幸之助氏の言う「情報化」は、ここで検討したシステム統合よりも、もっと漠然とし、あるいはもっと幅広い概念でしょう。そうすると、ここで検討した体制やプロセスよりもさらに、前工程が入ったり(会社として何をするのかを議論し、戦略を立てる工程など)、追加的な要素が必要になったりして(取引先を巻き込んだり、コンサルタントを雇ったりするなど)、もっと複雑になりますが、基本的な考え方は一緒です。
 「情報化」は、それだけ会社経営に大きなインパクトがある問題である、と松下幸之助氏は見抜いていたのです。
 どう思いますか?

※ 『経営の技法』の観点から、一日一言、日めくりカレンダーのように松下幸之助氏の言葉を読み解きながら、『法と経営学』を学びます。
 冒頭の松下幸之助氏の言葉の引用は、①『運命を生かす』から忠実に引用して出展を明示すること、②引用以外の部分が質量共にこの記事の主要な要素であること、③芦原一郎が一切の文責を負うこと、を条件に了解いただきました。


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