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松下幸之助と『経営の技法』#124

6/18 道義と金儲け

~社会によりよき道義を保つ上でも、自分を養うだけの金儲けが必要になる。~

 社会のために、よりよき道義を保つ上には、いかなる人といえども、自分を養うだけの金儲けをしなければならない。また力ある人は、それ以上の金儲けをしなければならない。金儲けせんほうがええとか、安い賃金で働けとか、あるいは、安いものを売れとかいうようなことを言って、お互いに金儲けのしにくいようなことを奨励するのは、貧困街道を走らすようなものである。
 商売にしても、会社に損をかけるような社長は、悪意でないというだけの話で、結果は泥棒と同じことである。
 そういうことに対して、もっと社会的な制裁―と言うとおかしいが、厳しいものがなければならないと思う。ところが破産したところは同情される。ある場合には、あれはアホーだなと言うけれど、ある場合には気の毒だなと言う。そういう常識の範囲では、本当の意味の繁栄国家をつくることはできない。
(出展:『運命を生かす』~[改訂新版]松下幸之助 成功の金言365~/松下幸之助[著]/PHP研究所[編刊]/2018年9月)

1.ガバナンス(上の逆三角形)の問題
 いつもと順番が逆になりますが、まず、ガバナンス上の問題を検討しましょう。
 松下幸之助氏は、会社が利益を上げることに対する否定的な論調に反対しています。これは、「金に汚い」「守銭奴」など、金儲けに対して道義的に悪い印象が比較的強い、と言われる日本社会の雰囲気に対する問題提起でもあります。
 すなわち、資本主義経済は、お金が欲しい、という人間の欲望を原動力とする経済体制ですので、それを否定するような雰囲気がある社会は、経済発展に足かせがあるようなものです。近江商人の「三方良し」などの言葉も、金儲けは商人のためだけのものでなく、社会全体のためでもあることが当然の前提となっているはずなのですが、成功した人を妬み、足を引っ張る傾向は、たとえば税や社会保障のコストの負担ルールのように、現在も根深く残っています。
 欧米では、自国産業が海外に出ていかないように、税制面など様々な方法で企業を優遇する政策が、右派左派問わず主張され、実施されていますが、日本では、例えば法人税を下げようとすると、必ず批判される状況です。日本経済の成長が止まってしまった原因は、少子高齢化のほかに、このような「経済観」も大きなウェイトを占めるように思われます。
 そのような状況だからこそ、従前の社会的な風潮に縛られず、純粋に金儲けを楽しめる若手起業家の活躍が期待されているのです。

2.内部統制(下の正三角形)の問題
 次に、社長が率いる会社の内部の問題から考えましょう。
 ここでは、経営に関し直接の言及はありませんが、儲けることを推奨していること、その理由として、それぞれの力に合った金儲けが必要としていること、を考慮すれば、従業員への配分も、会社の成長に合わせて大きくしていくことが前提になっていると考えられます。
 このことは、従業員への配分を高めるべきである、と議論されている現在の状況にも合致します。
 実際、働いても報われない会社であれば、従業員のモチベーションも上がりませんから、経営の観点から見ても、従業員に適切に会社利益の配分を行うことは、当然に必要なことなのです。

3.おわりに
 このように見ると、松下幸之助氏は、経営者だけが金持ちになるようなことを言っているのではなく、会社従業員や社会全般まで恩恵にあずかるような金儲けをイメージしていると考えるべきでしょう。やはり、「守銭奴」を認めてはいないのです。
 どう思いますか?

※ 『経営の技法』の観点から、一日一言、日めくりカレンダーのように松下幸之助氏の言葉を読み解きながら、『法と経営学』を学びます。
 冒頭の松下幸之助氏の言葉の引用は、①『運命を生かす』から忠実に引用して出展を明示すること、②引用以外の部分が質量共にこの記事の主要な要素であること、③芦原一郎が一切の文責を負うこと、を条件に了解いただきました。


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