労働判例を読む#323

今日の労働判例
【タカゾノテクノロジー事件】(大阪地判R2.7.9労判1245.50)

※ 週刊東洋経済「依頼したい弁護士25人」(労働法)
※ 司法試験考査委員(労働法)
※ YouTubeで3分解説!
https://www.youtube.com/playlist?list=PLsAuRitDGNWOhcCh7b7yyWMDxV1_H0iiK

 この事案は、医療機器メーカーYで開発業務を担当する従業員Xが、ハラスメントを受けていると主張し、他方、XがYの業務指示に従わずに十分な仕事をせず、Xにはメンタルに問題のある言動がある、とYが判断する状況で、Xに休職を命じ、その後、休職期間満了時に退職を命じた事案です。裁判所は、休職命令に理由がない、したがって退職は無効、と評価しました。

1.メンタルと問題行動
 Xは、入社当初からセクハラ被害を受けていると主張していましたが、他方で、コンピューターのシステム開発などに意欲を見せ、コンピューター言語を学ぶ姿勢も見せていました。けれども、適応障害との診断による休職から復職した後は、Yから指示されたリサーチ(粉体・静電気に関するリサーチ)しか行わず、それも、自主的に問題点を把握すること等をせずに、与えられた情報が間違えているなどとして不十分な回答しか行わず、さらにこれに対するキーワードが「金星」「雷」であるなどの意味不明な中間報告をし、その他、業務に関して会社として到底満足できない状況が続いていました。
 そこでYは、Xの理解不能な回答などを根拠に、メンタル上の問題があるとして医師の受診を命じ、これに従わないことを理由に休職を命じました。
 これに対して裁判所は、休職を命ずる理由がないとして、休職命令を無効としました。たしかに、日頃からXに接していたYの従業員たちにとってみれば、意味不明な言動のXはおかしいと感じたかもしれませんが、かといってXが会社を欠勤していたわけではなく、面談した産業医も「病気の症状は感じられなかった」等と評価しています。仕事のうえでの意味不明な言動も、精神面の異常によるのか、能力によるのかわからない、という理由で、休職事由該当性が否定されたのです。

2.実務上のポイント
 本事案のYの対応を見て連想されるのは、「綜企画設計事件」(東京地判H28.9.28労判1189.84)です。綜事件は、復職の際に「治癒」していない、として復職を認めず、退職とした会社の判断について、裁判所がこれを無効と評価しました。会社は、当該従業員の仕事への意欲が十分でなく、したがってうつ病が治っていないという判断をしたのですが、この判断を裁判所が不合理と評価したのです。
 メンタルや精神的な問題のある従業員が、業務遂行上も問題がある、そのため医学的な対応(休職命令や復職否定)をすべきなのか、法的な対応(解雇など)をすべきなのか、判断に悩む事案を多く見かけます。綜事件や本事案は、医学的な問題をクリアにして、すなわちどのような条件であれば仕事を任せられるのかを医学的に明確にしたうえで、その条件内で業務遂行能力が低いことを確認し、法的な対応をするべきだったようにも思われます。
 とは言うものの、状況は刻々と変化します。当初医学的な対応が適切と思えたものが、法的な対応しかできないような状況になることもあるでしょう(綜事件や本事案もそのような面があるのかもしれません)。医学的な面と法的な面が錯綜し、これらを整理しながら対応すべき事案では、労働法に詳しい弁護士と緊密に連携しながら対応する必要があります。

※ JILA・社労士の研究会(東京、大阪)で、毎月1回、労働判例を読み込んでいます。

※ この連載が、書籍になりました!しかも、『労働判例』の出版元から!


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