経営の技法 #9
1-9 監査と法務の位置付け
傍観しているだけの部門、自ら決断しない部門、など、会社の現場から歓迎されることが少ない部門として、似た立場にある部門だが、ガバナンスと内部統制を分けて考えると、両者の違いが明確になってくる。
1.概要
ここでは、法務と監査の、組織論上の違いを検討しています。
すなわち、法務は事前プロセスに関与することでリスクコントロールするのに対し、監査は事後的にプロセスを検証することで会社の体制を強くします。
これを、2つの会社組織論に当てはめてみましょう。
法務は、内部統制(下の正三角形)上の機関であることが明らかです。経営のチャレンジのために、適切にリスクコントロールし、経営判断すべきお膳立てをする役割です。
これに対し、監査の役割は、整理が必要です。
監査の対象は、内部統制(下の正三角形)です。適切な意思決定、すなわち適切なチャレンジが行われるべき体制だったかどうかを、事後的に検証するのです。
しかし、その役職上の位置付けは、ガバナンス(上の逆三角形)上の機関と見るべきです。経営に関与するのではなく、経営をチェックする役割だからです。
2.分析
いくつかの外資系金融機関での勤務の中で、外国人弁護士(特にアメリカン人弁護士)から、日本での監査や法務の役割が曖昧である、という指摘を何度か受けました。
その中でも必ず指摘されるのが、法務に関しては、経営者がボスなのに、なぜ「不正を暴く」ようなことを日本でもやらせようとするのか、内部通報義務について、アメリカでは弁護士を上げて反対したのに、日本の弁護士会は逆に社内弁護士にだけそのような責任を負わせているそうじゃないか。
この点は、弁護士の職務に関わる話なので、ここでは問題点の指摘にとどめましょう。
次に、監査に関しては、株主がボスなのに、何を遠慮しているんだ、なぜ経営が監査をコントロールしようとしているのだ、などの指摘です。
このように、両者の違いを明確に定義している考え方は、両者を使いこなしていないように見える多くの日本の会社にとって、参考になると考えたのです。
3.おわりに
アメリカ人ジェネラルカウンセルが、パーティーでの旦那さんの役割を例に、法務と監査を説明してくれました。
料理を作っている奥さんの脇に立って、味付けや盛り付けをアドバイスする旦那さんであれば、「法務」。
パーティーが終わってから、来年はここを変えたらどうだ、とアドバイスする旦那さんであれば、「監査」。「監査」は、パーティーの準備に口を出せないんだよ。
どっちの旦那さんになりたいかい?
それは、旦那さんの人柄や、奥さんとの関係によって決まるんだよ。
※ 『経営の技法』に関し、書籍に書かれていないことを中心に、お話していきます。
経営の技法:久保利英明・野村修也・芦原一郎/中央経済社/2019年1月
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