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経営の技法 #10

1-10 衆議独裁
 特に「独裁」という用語に毒があり、暴走を助長することが懸念されるが、上手に使えば経営陣や従業員にメッセージを浸透させるツールとして使える。メッセージを、雰囲気だけで決定するのではなく、会社組織論からの分析も行うのがポイント。

2つの会社組織論の図

1.概要
 ここでは、「衆議」と「独裁」に分けて、この言葉が生かされる状況を確認しています。
 すなわち、デュープロセス(同書3-6)が果たされるべき状況を意味する「衆議」と、一度決めたことは文句を言わず実行することを意味する「独裁」に分けたうえで、ガバナンス(上の逆三角形)と内部統制(下の正三角形)のそれぞれへの適合可能性を検討します。
 その結果、特に内部統制(下の正三角形)への親和性が高いことが明らかになります。

2.経営的な意味
 経営的に見た場合に特に重要と思われるのは、特に「独裁」の方でしょう。
 すなわち、「独裁」は、一度決めたことに対して、後から文句を言わせない、担当責任者の言うことを聞く、ということを意味します。
 しかし、これはまさに「言うは易し、行うは難し」です。
 例えば、テレビコマーシャルにしろ、会社の戦略にしろ、盛りだくさん過ぎてピンボケとなっているもと、逆にエッジが効いた鋭いものの、両方が見受けられます。
 この違いは、多くの場合、①責任や権限の所在を明確に定めないまま安易に「皆で知恵を出そう」とした結果、個性的な「尖った」部分が削られてしまう場合や、②責任と権限が与えられた部門が折角鋭いものを作り上げたのに、後から口出しされて、角が取れてしまった場合が、原因となっています。
 このように見ると、会社の競争力を高めるためには「独裁」が重要であり、「衆議」はそのためのツール(後で文句を言わせないためのツール)と位置付けることが可能なのです。

3.おわりに
 特に内部統制(下の正三角形)を考える場合、経営的な視点がより重要になります。理屈先行にならないような注意が必要です。
 また、経営学の権威、加賀野忠男先生に「経営の技法」を見てもらったときに、「衆議独裁」を実践していた会社が、「衆議」を放棄して「独裁」だけに集中したところ、時間をかけて経営がおかしくなってしまった事例を教えていただきました。一時代を築いた会社の転落の背景に触れ、会社文化や内部統制の在り方の重要性を知ることができたのです。

※ 『経営の技法』に関し、書籍に書かれていないことを中心に、お話していきます。
経営の技法:久保利英明・野村修也・芦原一郎/中央経済社/2019年1月


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