労働判例を読む#287

【ワイアクシス事件】(東地判R2.3.25労判1239.50)
(2021/8/20初掲載)

※ 週刊東洋経済「依頼したい弁護士25人」(労働法)
※ 司法試験考査委員(労働法)
※ YouTubeで3分解説!
https://www.youtube.com/playlist?list=PLsAuRitDGNWOhcCh7b7yyWMDxV1_H0iiK

 この事案は、コピーライターXが業務委託契約の下で会社Yで稼働していたが、この契約が解約されたことから、この解約は解雇権濫用に該当して無効であり、Yに対して雇用契約上の地位を有することの確認を求めた事案です。裁判所はXの請求を概ね認めました。

1.判断枠組み
 この事案で問題とされた論点は、一般に「労働者性」「従業員性」と称されるものです。労基法9条や労契法2条1項の規定によって判断されます。労働法は、労働者の生活を守るための法律ですから、守対象となる労働者かどうかは、契約の文言ではなくその実態から判断されます。すなわち、この事案のように業務委託契約という名称の契約であっても、その稼働実態が労働者と同じであれば、労働者として保護されることになります。この事案では、もし労働者に該当すれば、契約の解除(解雇)は合理的な場合に限定される、といういわゆる「解雇権濫用の法理」(労契法16条)が適用されることになるのです。
 このような労働者としての実態、といっても概念自体が漠然として抽象的ですから、裁判所は判断枠組みを設定し、様々な事実をこの判断枠組みに当てはめて整理して判断します。
 この判決は、以下のような判断枠組みを設定しました。
① 指揮監督下にあること
 ・ 具体的な仕事の依頼
 ・ 業務指示等に対する諾否の自由の有無
 ・ 業務遂行上の指揮監督関係の存否・内容、
 ・ 時間的場所的拘束性の有無・程度
 ・ 業務提供の代替性の有無
② 報酬に労務対償性があること
③ 事業者性のないこと
 ・ 業務用機材等機会・器具の負担関係
 ・ 専属性の程度
④ その他
 裁判例によって判断枠組みは多少異なります。事案に応じて、適切な判断枠組みを裁判所が設定することになりますが、ここで示された判断枠組みは、最近の裁判例では一般的な判断枠組みです。
 そして裁判所は、それぞれの要素に整理される事情を丁寧に認定し、労働者性を肯定しました。

2.実務上のポイント
 コピーライターという専門性の高い業務なので、プロであり、自営業者であり、したがって労働者ではないと感じる人が多いかもしれません。
 しかし、「国・津山労基署長(住友ゴム工業)事件」(大地判R2.5.29労判1232.17)では、国際A級ライセンスを有するプロのオートバイ運転手について、決められたコースを決められたとおりに運転してタイヤのすり減り具合などを実験するテストドライバーの業務に関し、労働者であると認定しました。プロとして仕事を選べるし、自営業者として働くことも可能でしょうが、役職した業務に関して裁量が少なく、むしろ指示に従わざるを得ない、拘束された状況にあれば、その業務に関してみると、労働者性が認められます。
 このように、プロであっても労働者、とする裁判例が立て続けに公開されていますが、共通するポイントは、「労働者性」はその人物の立場全体の問題ではなく、当該業務に関する関わり方の問題である、と整理できるように思われます。

※ JILA・社労士の研究会(東京、大阪)で、毎月1回、労働判例を読み込んでいます。

※ この連載が、書籍になりました!しかも、『労働判例』の出版元から!


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