松下幸之助と『経営の技法』#247

10/19 笑顔の景品

~親切な笑顔のサービスに徹する。徳をもって報いる方策でセールスに臨む。~

 ハワイ旅行というような景品も結構には違いありませんが、いつもご愛顧いただいているお客さんに対して、感謝の気持ちにあふれた”笑顔”の景品を日頃からおつけしていれば、あえてハワイ旅行というようなことをせずとも、お客さんはきっと満足してくださるのではないかと思います。また逆に、そういう景品がなければ、たとえ外国旅行に招待したとしても、お客さんとのつながりは一時的なものに終わってしまうのではないでしょうか。
 したがって、仮に私どもが、他のお店がただ売らんがために高額の景品をつけているからということで、その表面の姿に惑わされ、自分のところも同じような景品をつけなければならないと考えるならば、それは決して好ましいことではないと思います。結局そこからは過当競争しか生まれないでしょう。“あのお店はあんな、いわば常識はずれの景品をつけているが、自分のところは親切な笑顔のサービスに徹しよう”というように、いわば”徳をもって報いる”方策で臨んでこそ、お客さんに心から喜んでいただけ、お店のよきファンになっていただけるのではないでしょうか。考え方はいろいろありましょうが、私はそう信じています。
(出典:『運命を生かす』~[改訂新版]松下幸之助 成功の金言365~/松下幸之助[著]/PHP研究所[編刊]/2018年9月)

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1.内部統制(下の正三角形)の問題
 まず、社長が率いる会社の内部の問題から考えましょう。
 ここでの松下幸之助氏の言葉は、製品を購入すれば抽選で景品が当たる、という同業他社の政策を同じように導入するように求められたことに対する回答のようです。
 景品を導入した場合の、松下幸之助氏が描く最悪のシナリオは、ここで明言されていないことも含めて整理すると、①景品競争になる、→②顧客が景品の良さで購入決定する、→③販売店の顧客サービスの質が低下する(手応えの無さ、景品費捻出のための人件費削減、など)、→④顧客との信頼関係が無くなる、という中長期的なシナリオでしょう。
 逆に、このような景品競争に巻き込まれず、顧客に対する本来のサービスを重視し続ければ、景品競争によって本来の顧客サービスが失われていく同業他社の顧客に対し、本来の顧客サービスをアピールして売り込むことが可能になります。
 結局、景品にかかる費用は製品の収益から捻出されるので、製品の品質や顧客サービスの低下につながり、製品やサービスの競争力が失われる、という現在となっては当たり前のことです。多額の宣伝広告費が投入され、露出の多い製品やサービスが、他社と比較すると品質の劣る場合が多い、という事象も同様です。
 これを、内部統制の観点から見た場合、経営戦略として短期的な視野での判断(しかも、中長期的には会社の信頼を損ねてしまう判断)をしないような体制づくりがポイントになります。これは、経営者の置かれた立場として、次に検討するガバナンス上も重大な問題となりますが、本来の製品やサービスの品質を維持し、高めること、すなわち会社の競争政策として他社との差別化を図ろうとしているポイントからブレないように、適切にリソースが配分されることを、一貫できるような体制です。
 このためには、差別化のポイントやそのための競争政策の内容を従業員が理解していることや、それが適切に運営され、徹底されていることを、折に触れて適切に検証し、必要な改善を行うこと(PDCAサイクル、カイゼン活動、QC活動、シックスシグマなど)等が重要です。
 特に、経営が短期的な成果を焦りそうな場面で、行き過ぎた判断を止めることは、ワンマン会社等経営者の意向の徹底が重要とされている経営モデルでは難しいことです。
 けれども、従業員の自主性と多様性を重視し、どんどん権限移譲して任せてしまう経営モデルでは、一度、製品やサービスの品質にこだわりと誇りを持つ方向性が浸透すると、かえってそれを簡単に変えられなくなります。この意味で、経営モデルも、短期的な視野での行き過ぎた判断を抑止する効果があるのです。

2.ガバナンス(上の逆三角形)の問題
 次に、ガバナンス上の問題を検討しましょう。
 投資家である株主と経営者の関係で見た場合、経営者が株主の過大な要求に応えようとして、特にアメリカで顕著になったように、例えば4半期ごとの配当を増やせるような短期的な経営を行うようになり、中長期的な競争力が低下してしまった事例が多く見かけられます。中長期的な競争力を削り出して金銭化し、配当してしまっていることになるのです。
 そのような、行き過ぎた株主中心主義は、アメリカ型のガバナンス体制そのものへの疑問として議論されているところです。
 例えば、企業の社会的責任や環境経営など、様々な概念が用いられ、会社の活動が社会に対しても貢献できることの重要性が論じられます。そこでは、事業が長く継続できることの重要性も指摘されており、このようなガバナンス上の新たな方向性も、短期的な視野での行き過ぎた判断を抑止する効果があります。

3.おわりに
 もちろん、例えば短期的な限られたキャンペーンとして、景品を出すことも、経営政策として十分合理性があります。認知度が低い商品やサービスについて、まずはこれを知ってもらわなければならない、知ってもらえれば、商品やサービスの品質を理解してもらえ、本来の品質勝負ができる、という場合もあるからです。
 しかし、その場合でも、期間や金額を限ることで深追いしすぎたり、泥沼化したりしないように歯止めをかけておくことがよく行われます。
 結局、会社本来の強みを理解し、そこからブレない一貫した姿勢が必要なのです。
 どう思いますか?

※ 『経営の技法』の観点から、一日一言、日めくりカレンダーのように松下幸之助氏の言葉を読み解きながら、『法と経営学』を学びます。
 冒頭の松下幸之助氏の言葉の引用は、①『運命を生かす』から忠実に引用して出典を明示すること、②引用以外の部分が質量共にこの記事の主要な要素であること、③芦原一郎が一切の文責を負うこと、を条件に了解いただきました。

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