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経営の技法 #4

1-4 下の正三角形(社長と従業員)
 2つの会社組織論を整理する場合、下の正三角形にあたる内部統制の問題は、社長と従業員の間の関係の問題として整理される。ここから、実務上の会社組織論が具体的にイメージできるだけでなく、会社意思決定の在り方やリスク管理の方法なども検討できるようになり、会社組織の在り方、さらにはそれぞれの従業員の立場や役割が導かれる。

2つの会社組織論の図

1.概要
 上図の2つの三角形のうちの下の正三角形は、例えれば、コロンブスと、彼が率いるサンタマリア号以下3艘の船団の関係です。これについて、1-2と1-3で検討した「上の逆三角形」と対比することで、この特徴を分析しています。
 すなわち、上司が部下をコントロールするツールのうち、「お金と人事」は上の三角形と共通します。
 しかし、「ミッション」はそれぞれの与えられた業務によって定まりますから、経営者の負うミッションのように抽象的で裁量の幅の大きいものではありません。
 また、「忠実義務」を負わされるのではなく、個別の業務に応じた「注意義務」を負うものとされています。
 さらに、背景には、上の逆三角形のように「株式会社法」が規律するのではなく、「労働法」が規律する領域であって、制度設計も、特に制約がなく自由に行える、という事情があるのです。

2.下の正三角形の効能
 下の正三角形を用いて、上の逆三角形に対比させることには、効能があります。
 最大の効能は、会社自体(サンタマリア号以下3艘の船団)が、経営者のツール、より正確に言うと投資家からの負託に応え、ミッション(「適切に」「儲ける」)を実現するためのツールであることを、視覚的に明らかにすることです。
 つまり、内部的には上司の指揮命令下にあるものの、会社全体として見た場合には投資家である株主の利益のためであることが明確になります。しかも、株主から経営者を経由して従業員まで、そのラインが実はつながっていることが示されます。
 これは、従業員側から見えにくい、経営者の背後関係を明らかにしますので、いわゆる「社長」が世の中で偉いわけでもなんでもなく、むしろ株主の下僕にすぎないこと、したがって全従業員は、経営者を過度に持ち上げて神格化するのでも、かといって、経営者を貶めて馬鹿にするのでもなく、①経営者は株主と渡り合って会社の業務を円滑に行える環境づくりするという役割を担っている、②従業員は、その経営者に人事権を与え、一つのチームとして活動することを約束しており(労働契約)、会社が一体として「適切に」「儲ける」ために行動しなければならない、というそれぞれの役割を客観化できるのです。

3.おわりに
 例えば、北極海を中心とした地図を眺めたり、南北を逆にした地図を眺めたりするだけで、新たな発見があると言われます。
 同様に、この2つの三角形の図も、上下を逆さまにして、株主を最底辺、従業員を天井の線に置くとどうなるでしょうか。
 現場が力を発揮できるような環境作りが経営者の仕事であり、さらにそれをサポートするのが投資家の役割である、という役割が見えてきます。
 このどちらが正しい、というのではなく、このような要素も含まれていることに気付く、ということが重要です。

※ 『経営の技法』に関し、書籍に書かれていないことを中心に、お話していきます。
経営の技法:久保利英明・野村修也・芦原一郎/中央経済社/2019年1月


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