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経営の技法 #3

1-3 上の逆三角形②(逆三角形の中身)
 上の逆三角形(ガバナンス)は、地域と時期に応じてさまざまに変化しており、その結晶である会社法も詳細を極めるが、下の正三角形(内部統制)の在り方を議論するためには、その中でも基本となる概念、すなわち「お金と人事」「忠実義務」を理解し、使いこなすことが重要である。

2つの会社組織論の図

1.概要
 上図の2つの三角形のうちの上の逆三角形に関し、前問で検討した「ミッション」に続けて、株主と社長の関係を規律するためのツールとして、「お金と人事」「忠実義務」について検討しています。
 「お金と人事」は、現在の株式会社でも総会の必要的決議事項とされている、予算・決算と、役員の選解任権に通じます。投資家が経営者をコントロールするための、昔からのツールなのです。
 「忠実義務」は、遠く大西洋上を航海しているコロンブス(所有と経営が分離している場合の経営者)が、スペイン国王(投資家)に対して負っている義務であり、騎士道にも通じる自己犠牲の精神を背景とします。コロンブスが、インド航路を見つけた後にスペインの宿敵のイギリスに行ってしまっては困りますので、必ずスペインに戻ってきてくれるであろうことをスペイン国王は必死に確認したはずです。そのような精神的拘束が、現在には忠実義務という形で引き継がれているのです。

2.なぜ「ミッション」「お金と人事」「忠実義務」が重要か
 当初、従業員の立場と経営者の立場を対比するためには、経営者は自由に解雇されるのに対し、従業員は解雇権濫用の法理で守られている、という点を指摘すれば十分であると考えていました。
 ところが、経営者を見つめる社会の視線は厳しく、しかも多面的です。
 すなわち、人を働かせて楽して大金を稼いでいる、という「妬み」のようなものから、資金繰りや整理解雇など、会社の誰よりも神経をすり減らしている、という「同情」のようなものまで、実に多様であり、そのような経営者のイメージを1つに集約することはとてもできません。
 その根源は、経営者が投資家にどのように使われているのか、つまり、経営者は投資家に対してどのような立場に立ち、どのようにコントロールされているのか、という下僕としての側面(ガバナンス、上の逆三角形)と、経営者が従業員に対してどのような立場に立っているのか、というリーダーとしての側面(内部統制、下の正三角形)の両方を合わせ有している点に求められそうだ、と気づきました。
 すなわち、従業員に対しては立派なボスでなければならず(内部統制、下の正三角形)、投資家に対しては従順な下僕であり(ガバナンス、上の逆三角形)、しかも投資家からは様々なプレッシャーを受け続けている(前問と続けて検討した3つのツール)のが経営者であり、「妬み」と「同情」など、様々な評価を一身で受ける存在となるのです。。

3.おわりに
 そして、この整理から、経営者に求められる素養も、かなり輪郭を表してきました。
 この輪郭を、さらに明確にしたくなり、経営学の勉強を始めることになるのです。

※ 『経営の技法』に関し、書籍に書かれていないことを中心に、お話していきます。
経営の技法:久保利英明・野村修也・芦原一郎/中央経済社/2019年1月


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