労働判例を読む#241

【京都市(児童相談所職員)事件】大高判R2.6.19労判1230.56
(2021.3.24初掲載)

 この事案は、児童相談所の職員Xが、児童に対する虐待があったとして公益通報制度によって通報を2回行ったものの、不適切な対応がなかったという2回の報告に対して不満を抱き、当該事件に関する資料を閲覧し、持ち出した事案です。任命者である京都市Yが、停職3日の処分を下したところ、Xがその効力を争った事案です。裁判所は、1審に続き2審も、Xの請求を認めました。

1.2審の特徴
 2審では、判断の枠組みやその理由について1審の判決をそのまま踏襲していますが、Xがどのように情報を入手したのかなどの経緯がより詳細に論じられています。そこでは、Xが問題のある施設での不正を暴こうという正義心から行動していたこと、実際、そのような不正が後に発覚したこと、そのために内部通報窓口を活用しようとしたこと、等のストーリーがより強調されています。
 他方、Xによる資料持ち出しの発覚は、市議会で質問した議員が内部情報を持っていると示唆したことが端緒となっています。もしXの持ち出した資料を市議が持っていたら、資料を処分したので漏洩していない、というXの主張が否定されることになり、Yによる処分が有効とされた可能性が高くなるでしょう。
 2審は、このことを正面から否定していませんが、上記のようなストーリーをより明確に示したのはXが情報漏洩していないというストーリーをより印象深くし、補強することも意識しているのでしょうか。

2.実務上のポイント
 ここでは、Yによる秘密情報の管理が非常に甘く、Xが自由に情報にアクセスできたことが明らかになりました。不正競争防止法でも、秘密情報として法律上保護されるためには会社による厳格な情報管理体制の確立と運用が必要とされていますが、情報管理の甘さが労務管理にも影響を及ぼすことが明らかになりました。
 秘密情報の管理体制や運用について、会社は十分配慮しなければなりません。

※ JILA・社労士の研究会(東京、大阪)で、毎月1回、労働判例を読み込んでいます。

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