見出し画像

『出町柳パラレルユニバース』 ASIAN KUNG-FU GENERATION

とある疫病に罹患してしまい、自宅療養を余儀なくされた。体調面の辛さよりも、様々な予定をキャンセルして多方面に迷惑をかけてしまった反省と後悔の念の方が大きい。

そんなネガティブなマインドの中、アジカンから新作EPが届けられた。

今年の4月にnoteを再開するモチベーションとなったのがアジカンの最新アルバムであったくらい、彼らについて語りたいことは尽きない。一方で全てを手放しにして彼らを崇拝する気は無くて、好きな作品は好き、そうでもない作品もたまにある、くらいの温度でずっと応援している。

そして今回のEPはと言うと、やっぱアジカン好きだなあとなる至高の一作だ。

生みの背景についてはインタビュー記事を見た方が早い上に誤解なく伝わると思うので、まずはそちらのリンクを。今回のインタビューには、近年の彼らの歩みを踏まえると物凄く納得する経緯やメンバーの思いがあって、EPのリリースとは言えど読み応えたっぷりだった。

表題曲のM1「出町柳パラレルユニバース」は、とにかくプリミティブという第一印象だった。ゲストも大勢呼んでアジカン像を解き放った名作『プラネットフォークス』を越えて、また4人だけのアジカンになった!と嬉しくなった。

あの頃に戻ろうとか原点回帰しようとか、そういう類とはまた違う話で。地続きで歩んでいる彼らの活動の延長線上に、パワーポップへのエネルギーと森見作品の奇妙奇天烈な情景がエッセンスになったようなそんなイメージ。

MVは原作ともコラボしている必見の大迷作。

同じ森見作品とのタイアップである「迷子犬と雨のビート」や「荒野を歩け」と繋がる点が多いのはもちろん、コーラスの音節の区切り方は「UCLA」っぽいし、ギターでコーラスパートをなぞる手法は「ライカ」でも見た。そんな側面からも、『ホームタウン』で再燃した彼らのルーツであるパワーポップを軸としたフェーズに来ていることが感じ取れる。要所のフレーズでアジカンっぽいなーとなるあの感じは、他では決して味わえない。

特に好きなポイントは次の歌詞部分。

柳であって狸じゃない
出町であって小路じゃない

タイアップ曲ということもあって、背中を押されるようなメッセージやフレーズはいくつか切り取れる。ところが個人的には、「そんなこと訊いてないよ」と思えるほどに予想外の説明をしてくるこのフレーズが好きだ。もう何度も聴いているが特にここを通るたびに、ああアジカンを好きで良かったなあとしみじみ感じる。変なポイントかもしれないけど。

対立構造の歌詞って一般的にもよく見かける気がするが、さすがにこのフレーズの持つ予測不可能性とユニークさは、ゴッチにしか出せない味だなと思う。

前述したいくつかの曲をセットリストとして網羅していたのが、2019年の『ホームタウン』ツアーであった。こういったサイクルが定期的に訪れるのを見届けられるのが、長く活動するアーティストを応援する醍醐味だろう。

M2「I Just Threw Out The Love Of My Dreams」はAAAMYYYをゲストに迎えたWEEZERのカバー。女性ボーカルがメインの曲でAAAMYYYに声を掛けるあたりは、流石のコラボレーションセンスだ。

WEEZERは断片的に知っているレベルなのだが、1stから聴き漁って最近リリースされたEPまで聴いたら、何か見えてくる変遷の歴史があって楽曲の聴き方も変わるのだろうなと思う。来年に向けた宿題にでもしようかな。

完全な自説だが、最近「AAAMYYYとコラボすると、"分かってる"感が出る」という風潮があるような気がしていて、その風潮はわりと好き。単純に声が良いというフィジカルな魅力はもちろんあるのだが、その声が放つオーラのような、スピリチュアルな強みのある人だなと思う。

もちろん彼女にも彼らにも限らず、音楽制作はどんどんオープンイノベーションになってほしい。

M3の「追浜フィーリンダウン」は伝家の宝刀、建さん作曲のカップリングだ!と嬉しくなるクレジット。しかも建さんとゴッチがツインボーカルを努めるという珍しい一曲。

部屋の中に閉じこもって鬱屈した想いを吐き捨てるようなゴッチパートから、そんな想いを蹴飛ばして今にもドアの外へ走り出すような建さんパートへの移り変わりは圧巻。特にコーラス部分で伸びやかなボーカルと共に歌われるポジティブなフィーリングは、明るいながらもどこかナードの気配を感じる、これまたアジカンっぽい歌詞だ。「シーサイドスリーピング」「八景」に続く三部作?とのことで海辺によく合う清涼感たっぷりの楽曲。

余談だが、歌詞に出てくる"エコーチェンバー"は、今年7月にAAAMYYYが出したEPのタイトル『ECHO CHAMBER』とリンクしている。さすがに偶然だと思うが、何かの縁は感じずにはいられない。

最後はM4「柳小路パラレルユニバース」。
これまた大胆でユニークな手法をとったなと。表題曲の「出町柳パラレルユニバース」とほとんど同じメロディおよび曲構成で、異なるのはアウトロの構成と全体のサウンドプロダクションと歌詞/曲タイトルのみ。

数年前にハロプロの楽曲で似たような試みを見たけど、さすがに曲のアレンジも雰囲気もけっこう異なっていたよなあと。

上記のような近いチャレンジはあっても、ここまでがっつりダビングしているような手法は見たことがない。潔が言うように「難しい間違い探し」である。

ただ、変える所はガラリと変わっている。まず歌詞で言うと、先ほど取り上げたフレーズの後半部分が見事に逆転していたり、全編通して歌われる情景が京都から鎌倉に変わっていたり。

サウンドも"柳小路"の方がドライで荒削りな印象を受けた。アウトロでは「ラルラルラ」と歌い上げずに、気だるそうなギターリフで荒々しく幕を閉じる。「藤沢ルーザー」の終わり方に近くて、確かにこっちが『サーフ ブンガク カマクラ』の完全版にふさわしい。

特典Blu-rayのライブ映像は、2021年に行われた結成25周年ツアー「Quarter-Century」のライブ映像。「ラルラルラ三部作」の残り2曲の収録はもちろん、「十二進法の夕景」などのレア曲も収録されている。全編通じて印象的だったのは、ゴッチや建さんをはじめメンバー4人がとにかく楽しそうに笑顔で演奏していたこと。久々のライブで感じた喜びは、底知れないものだったのだろう。今年10月の横浜アリーナでのライブに、ますます期待が高まる。

実は、ちょうどこの作品が家に届いたその日は既に疫病を乗り越えていて、所用のため日帰りで京都へ赴いていた。なにかの縁だと思って高揚した道中だったが、聖地である出町柳に行く時間など無く、唯一乗れた路線は京阪の一本隣の烏丸線のみ。まさにパラレルユニバース。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?