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ショートショート『白紙の答案用紙』

「ご臨終です。午後四時三十五分でした」

初老の男が、息を引き取った。

医師は、自分の時計をみたあと、男の家族である看病疲れで老けた妻と、二十八歳になる息子に静かに引導を渡していた。

男は上をみあげ、いろいろとあったが、充実した、よい人生だったと思った。
それから男は、白い衣を着た姿になり、男は天に昇り、霧のような光が舞っている世界に入った。
光がまぶしい者たちが複数いたが、そのなかのひとりから声をかけられた。

「答案用紙をいただこう」

すると、男の手に答案用紙があらわれた。その答案用紙には、生きてきた感想と、生きる意味と世界についての考えが、その用紙に記されていた。誰にも話したこともない、どこにも書いたことがない男の本音が記されていた。

その答案用紙をみたときに、男のすべての記憶が甦ってきた。
男は生まれる前に、光の存在から、白紙の答案用紙をもらったのだった。
光の存在からは、生きることで自然とみえない答案用紙に、男の考えが記されるのだと説明された。

そして、この世界では、男同様、たくさんの人々が光の存在に、答案用紙を渡していた。
答案用紙を手渡すと、光の存在は答案用紙にふれたあと、また人々に答案用紙を返していた。

近くにいた人々の答案用紙をみせてもらうと、私の答案用紙には優良の印であったが、私とは真逆の考えが記された答案用紙にも優良の印が押されていた。男がなぜだろうと思ったとき、光の存在から、男の心に言葉が届いた。

「いかなる思想、考えでも、本人のものであるから、すべてが高評価になるのだ。遊び続けることが人生だと思う者も、一生懸命に努力して生きることが人生だと思う者も、それはそれでよいのだ。落第とされる者とは、自殺する者、他人を殺めて他人の人生を奪うもの、人生に執着して、この世界に戻れない者たちなのだ」

男は自分の考えと想いが書かれた答案用紙をみて、この答えはなにかの役にたつのだろうかと思った。

すると、またしても光の存在からの声が届いた。

「あなたたちの答えは、すでに創造主とも呼ばれる存在に届いている。あなた方の言い方にすれば、今後の宇宙のメンテナンス、宇宙の法則の改訂の参考にされる。あるいは、宇宙世界の終焉と、新たな宇宙の創造の決め手となりうるのだ」

(fin)


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