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不協和音(13)

楽器隊は演奏スタイルなど曲によって工夫する苦労があるが、ボーカルは英語を歌うというまた違うレベルでのハードルがある。プロ志向ならまだしも、アマチュアで英語の歌詞を抵抗なく歌えるのは天才か天然しかないと思う。その時のボーカルは幸い邦楽のコピーに限定していたから心配なかったが、素人が聞いても上手い下手がすぐわかるパートだけに勇気がいる。


世の中でアマチュアバンドは星の数ほどあれど、皆がプロを目指しているわけはない。趣味で野球をやる人間が多くても、プロ野球選手になりたいからやってるわけではないのと同じことだ。それだけに目標やゴールの設定が曖昧であることはある意味恵まれている。スポーツみたいに何かの大会で優勝するとか明確に勝ち負けの結果を得ることがない。

やる気さえあればメンバーを変えずにずっと継続できるし、おそらくスポーツに比べると現役で居られる年月も長い趣味になり得ると思う。

ただどの楽器にも言えることは、一人で継続することがそう楽しくはないこと。ピアノのソロをメインとしているとかなら話は別だろうが、少なくともエレキやドラムなどの楽器はいずれ誰かとバンドをすることを念頭においていることは間違いないだろう。一人で研鑽できるが、それ以上の楽しみを得るには誰かと交わることを避けては通れない。結局は人と人の話になるのだ。

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バンドに後から加入することと自分から募集することを考えれば、加入する方が楽な気がする。他のメンバーを探す苦労をしなくていいし、自分から何かを主張して皆をまとめるのが得意だとは思っていない。でも後から入るということは既存のメンバーに対して合わせていく立場になるのは必然で、それが嫌なら募集する側に立つしかない。

城は初めて加入したバンドを一回目のライブが終わった時点で抜けることを決めた。自分のような未経験者を拾ってもらったし、スタジオ練習の楽しさを味わったのも、小さいながらもステージに立つ楽しさも教えてくれた。人間的に嫌いな人もいない。じゃあなぜかと言われればバンド解散最たる理由として挙げられることの多い「音楽性の不一致」である。

プロでもないくせに音楽の好みが合わないだけで続けられないなんておかしいと言われたこともある。演奏の場を選べるほどの腕がないことも承知している。ではプロならそのような理由で辞めても仕方ないのにアマチュアが非難されるのはなぜなんだと城は思う。

プロなら仕事として、もしくは生活の手段として継続するメリットは大いにある。でも私たちは生活の中で趣味として演奏することを選んでいるのだ。趣味が楽しめない環境を維持することは彼女にはできなかった。人として友達として他では得難い仲であっても、歓喜の瞬間を同じ音楽で分かち合えないと共に演奏はできないと思う。

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