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バンド小説「不協和音」掲載のために始めたnoteです。

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バンド小説「不協和音」掲載のために始めたnoteです。

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  • 不協和音

    noteを始めるきっかけとなったバンド小説「不協和音」の更新記事をまとめています。主人公はスタジオに勤める女性ベーシストで、よくある栄光や挫折の物語ではなく生活がある中でのバンド活動として描いています。

最近の記事

不協和音(20)

そこでデザインから必要になったわけだが、成田はそもそも絵心があるタイプではない。かといって単に募集パートや音楽性だけを列記するだけでは芸がないし、そもそも大きくする張り出す意味もない。目立つか目立たない以前に載せることあるかな…としばらく考えてみた。 バンド名が既に決まっている活動中のバンドの欠員募集ならバンド名やビジュアル的なものがあるが、もちろんそんなものが現時点であるわけがない。そもそもビジュアルに自信があるわけでも、売りにするつもりもないし。自分がメンバー探す方の立

    • 不協和音(19)

      楽器に限らず趣味で始めたことを人前に出すということは、その時点で評価が伴う。上手いか下手か順位やランクをつけられることはもちろん、下手をすれば試験やチームワークまで求めらるなんてプレッシャーまでかかる。 上を目指すという意識自体を否定するつもりはない。ただ楽しむことに対して周りの目を気にすることは宮路にとって苦痛だった。 幼い頃から身長と運動能力に恵まれた彼は運動部でも実績を残せたし、人のために動くことも厭わないタチだった。率先して行動を起こすことはなくても学生の頃はそれ

      • 不協和音(18)

        数日後の休み、城は馴染みの楽器屋に立ち寄った。アクティブの感触を確かめるためである。アクティブの良さはベース本体にプリアンプが備わっていることで、出力が大きく高音・中音・低音のイコライザーが付加されていることである。音の輪郭を作ることがベース単体でできるというメリットは大きく、曲によって変化をつける場合でもベース自体のツマミを調整すればいい。 店頭で頼んで試奏させてもらったところ音の粒立ちがパッシブとは明らかに違い、今までと同じ弾き方でも立体感が出ていることを実感した。城は

        • 不協和音(17)

          冷静に他の演奏陣を分析していた城だったが、後の三人から見て一番驚かれたのが自分だという自覚はまるでなかった。城の演奏は技術うんぬんではない、その音がまず他のベーシストとは一線を画す堅さを持っていたのだ。 彼女自身は自分の音を今さら分析する必要もなかったが、その打弦の強さはピックでも指弾きでもアタック感の訴求がハンパない練習に裏付けられていた。機材にうるさい宮路などは一瞬「何を使ってるんだ?」とばかりに城の足元を見たが、エフェクターの類は一切ない。城は自分の指とアンプの使い方

        不協和音(20)

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        • 不協和音
          20本

        記事

          不協和音(16)

          さらに今回ギターとして城が勧誘した宮路の存在が良かった。ギタリストはどのバンドにおいても音の主張が最も大きい。アマチュアであってもそこは通じることで、楽器隊のイニシアチブはどうしても目立つギターに左右されがちになる。 しかし宮路はバンドとして初参加となるギタリストということを差し引いても大げさな主張をしない。しかしトラックメーカーなだけあって音作りに関しては機材の扱いも含めて勤勉だし、何より他の楽器とのバランス感覚に長けていた。 バンド編成で重要なのは個々の楽器隊のスキル

          不協和音(16)

          不協和音(15)

          華はそういう意味で城が出会った初めての「アーティスト」だった。 いくつかのバンドを経てきて城は自分より経験が多い人、技術的にもアマチュアとは思えない上手い人たちも何人か見てきた。それは単純に年齢としての余裕や人間的な厚みということもあった。ただ華から感じたそれはそれまでに城が見てきた「上手い」とは何かが違った。 華はいちシンガーではなく、楽器ありきでその衝動が発揮される歌うたいだったのだ。本人が言うように高音よりシャウトが強いということもスタジオに入ってから頷けた。彼女は

          不協和音(15)

          不協和音(14)

          一緒にいることを楽しむなら友達として付き合うことを続ければいい。城にとって音楽は、音楽があってこそ繋がりを意識できるものであればいい。そのための集まりがバンドという形であり、音楽を犠牲にしてまで人としての付き合いを重視することは音楽に失礼じゃないか。 演奏力がないくせにそういう矜持だけは一人前の城は、そうしてバンドの腰掛けを重ねていくことになった。もちろん本人に腰掛けのつもりはない。一度一度が本気で必死である。そういう柔軟性の欠如、趣味と理想の乖離が、城の融通のきかなさだっ

          不協和音(14)

          不協和音(13)

          楽器隊は演奏スタイルなど曲によって工夫する苦労があるが、ボーカルは英語を歌うというまた違うレベルでのハードルがある。プロ志向ならまだしも、アマチュアで英語の歌詞を抵抗なく歌えるのは天才か天然しかないと思う。その時のボーカルは幸い邦楽のコピーに限定していたから心配なかったが、素人が聞いても上手い下手がすぐわかるパートだけに勇気がいる。 世の中でアマチュアバンドは星の数ほどあれど、皆がプロを目指しているわけはない。趣味で野球をやる人間が多くても、プロ野球選手になりたいからやって

          不協和音(13)

          不協和音(12)

          ベースとして初めて入ったスタジオは、セッティングも含めてわけがわからないけど大音量が楽しかったという感想に尽きる。 自分の音が大きなアンプから出ることにまず驚き、どこまで音量を上げていいのかビビりながら少しづづツマミをいじっていたものの、生のドラムを傍で聞いた瞬間に「これはボリューム上げないと何も聞こえないな」と判断した。 後からメンバーに聞いたところ、ベースを弾くことに必死で他の楽器の音を聞けてなかったよと指摘された。思い当たる節が多すぎて赤面するしかなかったものの、そ

          不協和音(12)

          不協和音(11)

          考えたら親に勧められたわけでもなく何かを自分の意志で始めてみたことなんて進学先決めたこと以外なかったかもしれない。遅咲きの自己主張なのかと思えばそれも笑える。 反抗期に反抗するなんて当たり前なんだろうけど、社会に出てまでバンドなんて古典的な方法で自分らしさを求めるなんて逆にカッコいいじゃないかと思った。そういう気持ちがあれば後には引けない。 そういう一人での練習にもいつしか行き詰まりを感じ始めた頃、城は誰かと何かを鳴らしたいという当たり前の欲求を外に求めるようになった。

          不協和音(11)

          不協和音(10)

          かくして城は他のバンドマンより幾分遅いスタートラインに立った。 しかし社会人になってからの城の周りに楽器を弾ける友人はいなかった。才賀とも卒業してからは疎遠とは言わないまでも接点がなくなり、わざわざ初心者相手にベースを教えてくれるような奇特な人もいない。かと言って今さら教室に通って習う勇気もない歳だ。 何はともあれまずは形から入ろう。楽器を買って引っ込みがつかなくなれば嫌でもやるしかなくなるだろうと安易な思いで城は大型の楽器チェーン店を訪れた。 幸い仕事をしていれば学生の

          不協和音(10)

          不協和音(9)

          今でも楽器屋やスタジオにはその店で決まった形や手作りのメンバー募集チラシが溢れている。楽器人口の多い都会であればそう苦労しないのかもしれないが、地方都市では同じような音楽性を持ったメンバーに出会えることはそう簡単なことじゃない。 それもただ音楽の好みが合えばいいというものではない。誰だってあまり歳が離れた集まりは好まないし、学生さんがプロ志向で本気でやるものもあれば既に社会人として働きつつ趣味で続けたいというアマチュアも大勢いる。 そういった方向性で一致しても、上手いこと

          不協和音(9)

          不協和音(8)

          昔から五線譜なんて大嫌いだったし、必要な奴らが好きでやってればいい。楽器やってる奴なんて中高生の時には周りにいなかったし、そんなカテゴリーに自分が関わることになるなんて考えもしなかった。 もともと音楽の授業なんて科目の中では嫌いなランキングのダントツトップだったし、音符や楽譜なんてお上品なご家庭でしか縁がないものだと信じて疑わなかった。テストのたびに音楽さえなければもっと良かったのにとか、要するに邪魔な勉強のトップだったわけだ。 音楽室の壁に貼ってあるどこぞの国の巻き髪の

          不協和音(8)

          不協和音(7)

          課題曲が決まれば個人練習になる。洋楽のコピーは邦楽と違ってバンド楽譜に恵まれないことが多い。有名どころのバンドを選択すれば話は別だが、少しでもマニアックなバンドを選択すると必然的に楽器隊は耳コピになる。 今回のバンドは四人の話し合いの結果、バランスとしては有名どころを半分とコアなバンドを半分ということになった。特定のバンドに絞らず複数のバンドのコピーを選んだのは、まだ個々のメンバーの技量や得意な方向性がわからなかったからだ。 城は今回の課題曲では知らない曲はほとんどない。

          不協和音(7)

          不協和音(6)

          宮路という未知数のメンバーをギターに得て、とりあえず楽器隊は三人揃った。あとはボーカルを探すのみとなったわけだが、その点は張り紙以外にも成田の努力が身を結ぶこととなった。ネットのメンバー募集掲示板でボーカル経験者を見つけたらしい。しかもこちらが洋楽志向ということを理解しての話だ。 英語のボーカルがハマればそれはカッコいいだろうなと城は期待半分でいた。半分というのはそれまでの経験や日頃から見ている洋楽のコピーバンドに対して「やっぱり英詞を上手に歌えるボーカルなんてそうそういな

          不協和音(6)

          不協和音(5)

          少女マンガでバンドものにありがちなことを考えていた矢先、VOLTに自前の録音機材を持ち込んでもいいかという男性の問い合わせがあった。聞くとハンディ型のレコーダーとギター程度で大した機材でもないのだが、スタジオで鳴らしたギターの音を録音したいとのこと。ギターを直接レコーダーに差し込んで音色を加工するのではなく、その人は実際にアンプで鳴らした音をマイクで拾いたいのだと言う。 こだわりある人なんだな、と城は感心して聞いた。音色を変化させる機能や録音した後加工することも容易なことが

          不協和音(5)