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不協和音(7)


課題曲が決まれば個人練習になる。洋楽のコピーは邦楽と違ってバンド楽譜に恵まれないことが多い。有名どころのバンドを選択すれば話は別だが、少しでもマニアックなバンドを選択すると必然的に楽器隊は耳コピになる。

今回のバンドは四人の話し合いの結果、バランスとしては有名どころを半分とコアなバンドを半分ということになった。特定のバンドに絞らず複数のバンドのコピーを選んだのは、まだ個々のメンバーの技量や得意な方向性がわからなかったからだ。

城は今回の課題曲では知らない曲はほとんどない。曲自体の構成を改めて覚える必要がなければ、あとは演奏の覚え込みに専念できる。ただチューニングに統一性がなければギターとベースは曲の度にチューニングを変更する必要が生じる。

それはスタジオ練習を行う時だけでなく、仮にライブをする場合でも非効率だ。今回はそこも加味してレギュラーか半音下げまでの曲に絞ってあった。ハードな音楽をするバンドだとチューニングも変則的なものや極端に下げたチューニングだったりするから困ることもある。

そういう苦労ってギターとベースの人しかわからないんだよね、と城は職場のお客の会話でもよく聞く光景を思い出す。職場と言っても彼女の場合スタジオだが、練習を終えた後や休憩するバンドがロビーで話をしているところだ。


練習の演奏順やライブに備えて曲順を決めるときに、チューニングをあまり変更せずに進めるように調整するか細かく変えながら全体の流れを重視するか。アマチュアはほぼ前者で進めると思うのだが、どうしても曲順で譲れないことがあると手間をかけても細かく変更することを選ぶバンドもいる。

しかしプロではなくアマチュアは基本的に入れ替えも自分たちで行う。極端なことを言えば曲間で楽器を持ち替えたりチューニングを変える間に毎回MCを入れるという微妙な間ができるのも事実だ。


そこはもう自己満足かショーマンシップかという話にもなるけど。そもそも人前で演奏すること自体が充分自己満足だと思うんだけど。


また実際の演奏以外にエフェクターの使用やアンプのセッティングも意識するのが弦楽器隊の範疇だ。歪み系の音色はある程度アンプ側だけでもなんとかできるが、コーラスやディレイなどの空間系はさすがに個人のテクニックでどうにかなるものではない。


エフェクターも平たい長方形型のマルチエフェクターがあれば最近はアンプのモデリングまで入っていたりメモリー機能で複数の効果を同時に使用することも容易だが、城はペダルでエフェクターボックスに自分でこだわった筐体のコンパクトを配置しているギタリストが好きだ。


特に自分が基本的にアンプによる歪みしか使わないことから、曲ごとに違う表情を見せるギタリストは羨ましくもある。コンパクトエフェクターは箱ごとに色も違い、メーカーが違えば箱の形もツマミ一つですら表情がある。ボックスという限られた空間にその嗜好が色どり豊かに映え、バンドの演奏を一瞬にして違う色にして染めるのだ。


自分はそのサウンドの中でベースとして何を添えることができるか。城は自分の役割を、折々で模索しながらバンドを続けていくことになる。

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