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不協和音(11)

考えたら親に勧められたわけでもなく何かを自分の意志で始めてみたことなんて進学先決めたこと以外なかったかもしれない。遅咲きの自己主張なのかと思えばそれも笑える。

反抗期に反抗するなんて当たり前なんだろうけど、社会に出てまでバンドなんて古典的な方法で自分らしさを求めるなんて逆にカッコいいじゃないかと思った。そういう気持ちがあれば後には引けない。

そういう一人での練習にもいつしか行き詰まりを感じ始めた頃、城は誰かと何かを鳴らしたいという当たり前の欲求を外に求めるようになった。

今では出会い系のごとくメンバー募集サイトがあり、地域や年齢にジャンルや志向も指定してメンバーを探すことに関するハードルは低い。でも当時は今ほど掲示板が流行ってなかったことから、やはり楽器屋やスタジオで張り紙を探して仲間を探すことしかできなかった。

年齢はある程度近い方がいい、あまり上級者じゃないほうがいい、ジャンルはコピーから始めたい、欲を言えばキリがないけどこちらも選択肢を述べられるほど何かを弾けるわけじゃない。それより張り紙に二種類あることを城は初めて意識した。

メンバー募集か加入希望だ。前者は既に結成されているバンドの欠員か新規募集パートの空席。加入希望は自分一人でこういうバンドに加入したいという意思表示。わかりやすいが後者の方が見つかりにくいだろうということは城にもわかった。加入希望を出すには自分自身がそれなりに弾けてできることを説明する必要があるのだ。

必然的に選択肢が前者になったら、あとはそのバンドが演奏する曲が自分の好みと一致するかどうかだけだ。そう多くはない候補の中から城は一つを選択して電話してみることを決めた。

ただ大して弾けるわけでもない自分がどうやってそこに入ったらいいのだろうと思ってたら、連絡した相手はまず顔合わせしましょうよと言ってきた。当然と言えば当然だ。いきなりスタジオに入って何か弾こうと言えるほどの腕もない。待ち合わせはドリンクバーのあるレストランチェーン。長い時間居座っても大丈夫なところを選ぶ待ち合わせなんて学生の頃と同じだな、と思って城は顔合わせの日を待った。

仕事でもない、友人同士でもない、バンドという共同体を成立させるという一致した目的のために面識のない人間同士が顔合わせをするというのはなんだかバイトの面接のような一種の気恥ずかしさがある。面接と違うのはどちらか一方が採用を決めるという関係性が必ずしも成り立たず、双方が互いの印象を見極める場になり得るということだ。

待ち合わせに現れた男性はギター弾きということで概ね話しやすく、あちらの印象も悪くはないという印象を受けた。とりあえず第一段階はクリアといったところか。あとは曲を聞いて自分が弾ける段階になってから一緒にスタジオに入る予定を組むだけである。

それも後から入る立場上、あまり待たせることになっては心苦しい。曲をある程度の期間で覚えてくることもその後のバンドの動きを左右する要素になるからだ。とりあえず半月後にスタジオに入る約束をしてその場は収まった。

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