最近の困った話~自称芸術家は面倒

1年ほど前から、とある小さな町の「町おこし」的なイベントに関わっている。「町おこし」と言うよりは「村おこし」というべき規模であり、極めて小さな案件ではあるのだが、その発起人が長い付き合いのシャチョーさんなので、「手伝ってよ」と言われたら無下にもできないわけで。

中心になっているのは知り合いのシャチョーさんなのだが、コアメンバーの中に「自称芸術家」さんがいた。造形作家さんなのだが、作品は決して悪いものではないと思う。知り合いのイベンターや広告代理店に見せると、皆口をそろえて「面白いね。ちょっと使いたいな」というのだから、私の感想もあながち間違ってはいないと思う。地方ローカルのTVでも取り上げられたこともあるそうで、その作品の世界観は私も嫌いではない。「自称」とつけているのは、作家活動では飯が食えていないためだ。事実上の生活費は、彼の奥さんが切り盛りする稼業の売り上げだという。知り合った当初、「目標は作家活動で食べられるようになること」と、自分で言っていたので、「自称芸術家」と、私は彼のことを認識している。

半年ほど前、無事に地元自治体の助成金も獲得できたため、この秋にイベントをやることになった。小規模の物販イベントなのだが、そこに販売ブースの目玉として「自称芸術家」作のワゴンを登場させることになった。そこまではいい。ワゴンというセンスには少々疑問を抱いているのだが、これは地元民でもあるメンバーが決めることだ。そして開催も差し迫りつつある夏の終わり、SNSのグループメッセージに2枚の落書きが投稿された。投稿したのは、もちろん彼だ。フリーハンドで書かれた雑な線で構成されたその落書きの意味はさっぱり分からなかなった。「ワゴンのイメージを呑みながら書いていたんだろうな~」と思った。おそらく誰もがそう思ったのだろう。その落書きには誰もコメントをしていなかった。

その落書き投稿から数週間後、MTGが行われた。商品の梱包、サイズなど大まかなことが決まりつつある中、当然のことながら、話はワゴンの制作に及ぶ。
私「じゃあワゴンをどうするか決めましょう」
芸「決まってます」
私「??」
芸「この前、ラフ送りましたよね」
え~~~!!!あれラフだったの!!!そりゃROUGHは「粗い」っていう意味だけど・・・
私「あれでは全体のデザイン全く解りませんよね?」
芸「・・・・」
私「□と〇だけで構成するんじゃなくて、せめてちゃんとイメージの伝わるものにしません」
芸「・・・」
私「開催まで2か月を切っている中で、この状況だったら、ワゴンがない場合も想定しつつ、ワゴンについては今日決めましょう」
芸「・・・」(プイと席を立つ)

その後、ワゴンがない場合も含め、販売ブースをどう作るかの話をしている時、「自称芸術家」が戻ってきた。
芸「このプロジェクト辞めます」
私「(おお~辞めてくれるか!ラッキー!)」
周「そんないきなり言わないで、話し合いに参加しなさいよ」
芸「僕に任されていると思っていたのに、それを否定されるならできない」
私「(こいつマジモンのアホ?)」
周「そうじゃなくて、どんなものを作るか示してというだけだから」
私「(引き留めるんじゃねーよ!)」

そんなすったもんだの結果、サイズを入れた簡単な設計図を提出するということになった。そして3週間後、つい先日なのだが、深夜に再びSNSのグループメッセージに写真が投稿された。
「ワゴンできました」
えーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!
設計図はーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!
恐る恐る写真を見た。
何これ?
小学生の工作?
そもそも小さすぎない?
これ何も載らないよ!!!
そこに写っていたのは、杉板を四方から張り合わせ、下にリヤカーのタイヤのようなものを取り付けた物体だった。
絶望的なことに、杉板の上に謎の記号が描かれている。
それは宇宙戦艦ヤマトの隊員服のような、下向きの矢印だった。
メンバーの一人がそれについて「これ何?」と質問した。
返事は即時だった。
「花です」
えーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!
前衛的すぎる、というか前衛的という言葉も、ここまで許容範囲は広くないだろう。

だめだ!
完全に萎えた。翌朝、このプロジェクトの中心メンバーであるシャチョーさんに電話をした。もちろん途中で投げ出す非礼を詫びるためだ。
私「もしもし。いつもお世話になってます」
シャ「昨日のワゴンの件やろ?」
私「はい」
シャ「俺も気になったんで、さっき見てきた。とにかく小さかったわ」
私「やっぱり・・・」
シャ「もうしゃあない。あれはあれでいこう。辞めるとか言わんといてな」
見抜かれてた。
この悪夢の投稿を契機に、自称芸術家は頻繁に投稿を繰り返すようになった。「上に草を飾りたい」とか「周りの板に焼き目をつけようと思う」とか・・・
個人の感想としては、もうこれ以上触らんといて!と言いたいのだが、もはや止める気力もない。
この数日は、他の仕事に注力することで現実逃避を図っている。

そんな中、いよいよ再来週、イベント前最後のMTGとなった。ついに悪夢のワゴンとの対面だ。自分をどう抑えようか。今はそれだけを考えている。

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