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裏裏ひよこ日記。(特別篇の後編)フレッドのたまひよダイアリー

うちの奥さんに赤ちゃんができた。とても喜ばしい事だが当の本人はかなりきつい期間。そして今一番仕事が立て込んでいて広報とちゅーぎんの査定部を兼任していてついでに人材育成部にも籍を置いてる。そして間の悪いというかなんというか新しいプロジェクトが始動したばかりだった。

なんとかするとひよこはいうが
なんとかするとかそういう事態ではないような。

食欲が落ち、水を飲んでも何かの匂いを嗅いでも具合が悪くなるという状態。悪阻である。ジョッシュのときはなんともなくてずーっとなんともなくて、すこぶる健康なマタニティライフみたいなやつをおくっていたが、
今回のは違うらしい。少し動くと立ち眩みを起こし、食べ物の匂いを嗅ぐと吐き気を催し、始終船酔いのような感じらしく、帰りの車の中ではシートを倒して寝てる。ゼリー飲料とマスクメロンとレモンの香りだけは受けつけるため、オレは毎日デパ地下やスーパーでマスクメロンを探しもとめ、ひよこはレモンの精油をハンカチに染み込ませいつもそれを嗅いではこみ上げてくる吐き気を抑えていた。

行きも帰りも車でどんな天気であろうと窓を少し開けていた。気が紛れるらしい。
雨が多少降り込んでも気にしない。あー雨がきれいねー、風が気持ちいいねー。とひよこは少しご機嫌になる。

あまりに食べ物を受け付けられなくて産婦人科で点滴をうけていた。そのせいかアルベルトの心配度がマックスを振り切れんばかりの勢い。
そして怒りの矛先はオレ。仕方ないと甘んじて受け止めるが限度があるというものだ。
ある日の夜に、ひよこは洗面所にこもりっきりで出てこなかった。アルベルトはやっぱりオレにケンカを売ってきた。
はじめはスマンと言っていたがやっぱりムカつくものはムカつく。
そして小さめな声で諍いとなっていたけどだんだんヒートアップしてきた。

そしたらひよこが洗面所からでてきた。グスグズ泣き出したジョッシュにおいで、いい子ね、大丈夫よ。ママがいるからね。トントントンとリズムをつけてジョッシュをあやすひよこは静かに怒り出した。

ジョッシュを連れてわたし出ていく。生まれてくる赤ちゃんと3人で暮らす。文句ないでしょ、はい、問題解決!!
とジョッシュを抱っこしたひよこが言い放ち、抱っこしたくれているママの険しい雰囲気がはじめてのジョッシュはついに泣き出し、男2人はうなだれて猛反省し、俺達はそれからしょうもないケンカを一切しなくなった。


同化後のひよこは自信がついたのか凜としてたくましく、キレイで強くて自立したひとりの魅力的な女性になっていた。何年前かのふわふわっと可愛くて自信がなかった女の子はここにはいない。

そんなこんなで悪阻も落ち着き安定期に入ると今度は食欲が爆発し、食べつわりが始まった。何もかもジョッシュの時とは違う。オレの心配をよそに今日も元気にバリバリ働き、ばくばく食べている。
ひよこちゃん、もうそのくらいに…
ひよこ、食べ過ぎだ。
食べても食べてもお腹が空くの!

瞬く間にオレとアルベルトは健康的な料理の腕がメキメキと上がっていった。レパートリーも一挙に増えた。オレは飽き足らずに料理教室に通い出した。アルベルトもなんかやってるっぽい。よって火がついた。なので料理も製菓もお手の物となった。

掃除も洗濯もバッチリでアイロン掛けに至ってはオレはクリーニング屋になれるんじゃないかと言うくらいの腕前になった。それから育児書や妊娠中に食べるとよい食べ物やマッサージのやり方やら何やらかんやら読み漁り調べまくり、プレママパパ学級にももちろん欠かさず出席し、めんどくさいと言うひよこをマタニティスイミングにつれていき、ダルいとかいうひよこをマタニティヨガにもつれていき運動不足にならないようにしている。散歩はアルベルトが積極的に連出し、ヘルシーなビーガンスイーツ等を食べさせたりなんかしてるっぽい。家のコーヒーも紅茶も素知らぬ顔でデカフェに切り替えしてみた。

アルベルトはジョッシュの世話に掛り切りでナニーの手配がうまく行かない時は自分の会社にジョッシュを連れていき会社でどうしてもしなければいけない仕事だけして後は自宅に持ち帰り七割リモート、3割出勤、後は家事育児に率先して取り組んでいる。

アルベルトもすっかり変わった。

ジョッシュというかけがえのないギフトをひよこにもらったアルベルトは生来の鬱屈した陰鬱さが消え、もとからカッコ良かったが更に男前に仕上がった。ひよこを大層大切にし、ストーカーまがいなひよこ病はすっかり鳴りを潜めたがレベルの深い愛に変わったっぽい。父性がすごい。モテまくりは相変わらずだが前よりもっと見向きもしない。このひとも家族と温もりと変わらぬ愛が欲しかったのだと理解した。なんだオレと一緒じゃねえか。

ならひよこは与えるヒトなんだろう。

そうこうするうちに臨月になった。休めばいいのに仕事が好き過ぎるひよこは家でリモート仕事に勤しんでいる。ついでにオレも育休を取った。いつ産まれてもおかしくないのにひよこは構わず仕事してる。

突然破水して病院に駆け込んだ。アルベルトは
2回目の経験でもオレははじめてだ。
陣痛がすごいのかひよこはめちゃくちゃ機嫌が悪い。アルベルトはそんなひよこを上手にいなしている。オレは心がざわつきすぎて動揺を抑えられずひよこからそこら辺歩いてこいと言われて病院内をウロウロしている。

ひよこは立ち会いはマジ勘弁してくれと言い張るのでオレは希望に沿った。アルベルトのときで懲りた(アルベルトは産室で余りに壮絶なそれを見て軽く気絶した)とひよこはずーっと言っていた。産室がにわかに騒然となった。看護師さんたちが慌ててる。母体が危険です!と言われて目の前が真っ暗になりそうになった。入れますか?と聞いたら無理です!と断られた。

もし万が一のときがあったらどうしよう。絶対失いたくないとそればっかり頭をよぎる。

ひよこは一瞬心臓が止まりそうになったらしい。出血多量でもう少しで輸血をしなければいけない状況だったと後から医者に説明されてオレの心臓が止まりそうになった。

もう絶対絶対失いたくないので一生をかけて大事にしようと固く決意した。絶対後悔させないからレベルではなく、それ以上のもっと強い何か。

ひよこは嘘みたいに順調に回復した。夜な夜なこっそりラファエルさんがやってきて治療していた。ひよこと同じ病室で付き添いベッドで横になっているオレにしいーって言ってついでに不調の箇所までいっぺんに癒やした。ついでのついでにオレも癒やしていった。部屋中なあふれかえるグリーンゴールドの光がキラキラしていつまでも見ていたい空気だった。


赤ん坊はハチャメチャに元気でこれは誰に似たんだろう…だからひよこがあんなに体調崩したのか…とかいう仮説を立てたいくらいに元気でいつも機嫌がよく、ものすごい完成度がたかい赤ん坊だった。小さいが小さくない。未完の大器な感じ。これがスターチャイルドなんだな。と思わせる雰囲気。

見た目はオレに似ている。可愛くてたまらない娘がオレにできた。産まれた知らせを聞き、ボスのミカエルはすっ飛んできたが一緒にやってきたハニエルさんにわたしのよ。と断言されてがっかりしていた。ミドルネームはハニエルさんがつけた。と言うか名前が長い。こんなに加護の強い娘いるんだろうか。マギーとイタリアのマンマがひよこと赤ん坊の世話をしたくてたまらないらしくほぼ押しかけでやってきた。みんなジョッシュとジョセフィーヌにめろっめろである。

うちのコは2人とも猛烈に可愛いので当然と言えば当然なのだが。

オレの育児ライフが始まった。
大変だけどかつてない満足を得られている。
慣れない育児は大変。
遊び歩いて飲み明かしていたかつてが信じられないくらい家にいることに幸せを感じる。毎日感謝が絶えない。






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