その日はそわそわして落ち着かなかった。外がものすごい雪が積もっていたからだ。

アルベルトが急用で一緒に来れなくてその用事を済ませてイギリスのフレッドの生家に来るようになっていた。

こんな天気で来れる？

あいつは絶対にくる。

ほんと？

おまえがここにいるのに来ないなんてありえない

一人掛けチェアに座ってオットマンに足を投げ出してのんびり本を読みながらフレッドがやや投げやりに答える。

おまえ朝からそれ10回以上オレに聞いてるぞ？

あれ？そう？

そう。

心配すんな。なにが何でも来るやつだ。
来ないなんて選択肢はあいつにはない。

本をパタンと閉じてフレッドが立ち上がる。

さてと。

ん？

クリスティの様子をみてくる。

わ、わたしもいくっ！！

なら寒くないようにしろよ？

わかった！！

わたしが部屋に戻ってワタワタと支度しているとマギーさんが手伝ってくれた。

ひよこさま。心配されずともアルベルトさまは必ずいらっしゃいますよ。

来てくれたら嬉しいけどこんな天気悪いから途中で事故にあったりトラブルに巻き込まれたらどうしようってそれが心配で。

まあ。アルベルトさまは幸せ者ですこと。
こんなに可愛らしい人を残してそんなことは起こりませんよ。

そうなんですけど…

アルベルトさまはしっかりしたお方ですから算段を整えられておられるはずです

ですよね

さあさあ支度ができましたよ。
クリスマスの雪は格別ですこと。
神聖な気持ちになりますからね。

クリスティと散歩したら良い気分転換になりますよ。

あれこれといろんなことが頭をよぎる。
例えば今となりを歩いている人が私の眼の前から消えなくて良かったとか、アルベルトを傷つけちゃったとかとかとかいろいろ。

…どうした？

クリスティがじいっとわたしを見てる。

うん、まあいろいろあるよね。大人だもん

大人か…ならコレ要らなかったかもな。
フレッドはポケットからシャボン玉を取り出した。

シャボン玉？

大人なんだからいらないんだろ？

いやっ！大人だからこその必需品ですっ！！！
なんでそんなのもってるの？

うち、お子さまがいるだろ？だから。
喜ぶかなと思って

え、フレッド子供がいたの？

は？

…いたらどうする？

え、会ってみたい！

そのうち会えるんじゃない？

ほんと？

あー、たぶん何年か先。

何年か先まで会わせてもらえないの？

…そうだな順番まるっとシカトだったら最短で一年後とかならあるかもな。

へえー。そうなんだ？

おまえほんとアレだな、会話が噛み合ってないとか思わないわけ？

や、なんか変だなとか思ったんだけど…

プッ…あはははっ。
そんな会いたいなら会えるんじゃない？
こればっかりは正しく神のみぞ知るセカイだけどな

あ、あーっ…、そっちね

そんな心配するな。全部うまく行くから。

…はい。

で、これする？

うんっ！するっ！！

だってよ、クリスティ。ならもう少し冷えた場所にいかないといけないな。

なになに？なんかシャボン玉で面白いことするの？

ま、実験だな。うまくいけばいいけどな。

へえー。

うまくいかなかったら…ふつーに遊べばいいし、何ならアイスランドとか北欧にもって行って試してみたらいいさ。

アイスランド？北欧？

もう忘れたのか？ピヨピヨめ。
オーロラ観に行く約束しただろ？

あっ！うん！覚えてるよ！
一昨日の話を忘れ去られていたらさすがのオレでもメンタルにくるぞ？

わすれてませんっ！！

どうかな、うちの奥さん忘れっぽいし

サクサクと雪を踏みしめながらクリスティと私達の吐く息が白い。

おくさん。

は？

改めて聞くとおくさんてなんかすごいひびきね

？

いいの。私の感想だから気にしないで

いや、丸わかりすぎて。面白いなと

？

確かにな。

おくさんてなかなかのパワーワードだよな。

でしょ？

旦那さんとか夫とかもパワーワードだとおもわないか？

うん。

呼び名で変わる世界線があるんだよな

ほんとねー。
等と取り止めない会話をしながらずんずん歩く

森の入口の手前でクリスティが止まった。

なに、クリスティここにする？
ブルルルってクリスティが返事した。

えーっと。
まずは試しに。うまく行けばいいけどな。

クリスティの背中に取り付けていた荷物をフレッドが探っている。
　えーっと塩、トレイ。それから

できたらもう少し寒い場所がいいんだよな
クリスティ、ここで少し待てるか？

クリスティはハイハイ待ちますよご主人。みたいな目をした

少し歩くぞ？

うん

森に入って歩いていく。しばらくするとぐんと気温が下がってきた。

ひゃー、日がささないとこんなに寒いんだ？

でも寒くないとこれがうまくいかないんだよな

見てろ。できたらラッキー。できなかったらまた試してみたらいい。

雪をこんもり積み上げて塩を振ってさらに冷たくしたらフレッドがふう～とシャボン玉を吹いた。じいっと見てたらシャボン玉が固まった。更に見てるとシャボン玉に雪の結晶模様が浮かび上がる。

は、は！うそっ！待って！！なにこれすごい！綺麗！！撮りたいこれっっ！！

すぐに消えるかもしれないからさっさと撮れ

うまくいったフレッドは嬉しそうだ。更に何個か慎重にシャボン玉を吹いていくつかまた成功した。

はーっっ！きれいっ！！うそー！！みてっ！スノウドームみたいっっ！！

やべっ！早くしないと。

フレッドもカシャカシャシャッター切って、それからまた自然の奇跡みたいなシャボンスノウドームにふたりでじいっとみてた。

気にいった？

もう、もうなんて言ったらいいかわかんないくらい嬉しい！！

わたしこんなスノウドーム欲しい。

え

わたしスノウドーム好きなの

そうなんだ？

はあ、ものすごくいいもの見れた！！

成功してよかった。

ほんと！

でもアレだな。オーロラの下でやるコレもまた
神秘的だろうな。

うん

楽しみがまた一つ増えたな

ほんとっ！！

少しは気分が晴れたか？

うん

ならよかった。

冷えるな。戻るとするか。
せっかくだから礼拝堂でステンドグラスでも観る？

入れるの？

今日は開いてるだろ

なら行く

ついでのついでと礼拝堂でうっとりするようなステンドグラスを見て時間の感覚がすっぽり抜け落ちた。おまけに賛美歌が何処かから聞こえてくる

もうなんなの感動しか浮かばない

ここのをちゃんと見たことなかったがこれもなかなかいいもんだな。

すっかり冷えたので温かい飲み物を飲もうとクリスマスだけど唯一オープンしてたパブに寄る。クリスティは外の馬房に繋いでしばらく休憩

温かい…
マジで染みる

ディナーまでには来るはずだ。

ほんと？

ほんと。