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ひよこ日記。秋が来るのが早いパリ

気がつけば秋。パリの夏は短い。あっという間に夏は終わって今は朝20℃ない日も増えてきた。

頑張って頑張って仕事を巻き巻きで片付けてバカンスに行ったのが懐かしい。

フレッドはすっかりバリ島にはまってしまい、帰る日を伸ばしてバカンスギリギリまで延泊すると言い出したのでわたしは一人だけでパリに帰ってきた。

6日ぶりに会うアルベルトは空港の到着ロビーでわたしを見つけるやいなや走ってきてぎゅううっとハグしてきた。

ひよこちゃん!おかえり!よかった。帰ってこないんじゃないかと少し心配した。よかった。

もちろん帰ってくるに決まってる。

フレッドはバカンスギリギリまではあっちにいるって。

というとアルベルトは聞いてる。と笑った。

多分すっごいストレス溜まってるし疲れてるんだよ。

まあ、うん、そうだろうねえ。あいつはちょっと神経過敏なところがあるから

若干潔癖症で好き嫌いが激しい割にヤモリとか謎の虫とかが部屋や窓にビターと張り付いてたり、お皿がキレイに洗われてないっぽい感じがする屋台とか、すっごいぬるいビールとか、お湯が突然水に切り替わるヴィラのシャワーとか、普段眉を顰める案件各種はバリでは無問題(モウマンタイ)なフレッドに驚いた。

というとアルベルトは快活に笑った

…それでね、疲れてるみたいだったからバリ島での全身フルコースエステ3時間とタイ古式マッサージとアーユルヴェーダをプレゼントしてきた。

ひよこちゃん、優しいねえ。喜んだでしょ

うーん、どうだろ。感想きいてないや。


あいつ意地っ張りだから。こっそり感激してるよ。

ならいいけどさー

そうかそうか。

アル仕事は?

片付けてきたよ。誰より大事なひよこちゃんとの時間邪魔されたくないしね。
どこか行きたいところある?

え?うん、そうだねえ、のんびりしたい
あ、でもアルベルト行きたいとこあるならそこにしよう?

そうだね、僕はひよこちゃんさえ居たら何もいらないから。

またまたー

ほんとだよ。今日は疲れてるだろうから帰ってたらすぐに休むといいよ。でも一緒に寝てね?淋しいから。

うん。

バリ島はあちこちうろうろして棚田や山にいったり、バリ島の美術館いったり、銀細工の村に行ってシルバーのアクセサリー買ったり、天体観測したり、ガムランの演奏にハマり倒したフレッドがガムラン買うとかいい出したり、ふたりして民族衣装着てコスプレしたり、象に乗ったりバギーで山の道なき道の崖っぷちギリギリをスピード狂のフレッドにぶっ飛ばされたりで泣きそうになったり、屋台のよくわからない料理(多分アレルギー)で蕁麻疹を出し、ものすごく慌てたフレッドに速攻で病院に連れていかれて注射され、治るとこっぴどく叱られたり、ウェルカムフルーツに出されたランブータンが美味しくておやつに欲しいとスーパーに買いにいったら売り場にあったドリアンの匂いが強烈すぎてふたりともおかげさまで鼻が効かなくなったり、散歩の最中に突然のスコールでびしょ濡れになったりと結構アクティブにうろうろしていた。

そんな話をするとアルベルトはその度に笑ってくれた

で、わたしはというと残りの2週間は穏やかに過ごしたい。

でもアルベルトはこれから3週間のバカンスなので行きたいところもあるだろうし私ばっかり優先されるのも心苦しかったりする。

わたしの都合ばっかり優先したらダメよ?ともう一度念押ししていうとアルベルトは苦笑いした。

参ったな。。そうだな僕はほんとにひよこちゃんさえ居てくれたらどこでも構わないんだけど

行き先はアルベルトが決めていいよ。

ほんとに?

もちろん!

後でゆっくり考える。

そうして。

帰りがけ、わたしたちは馴染みのビストロでお腹いっぱいディナーを食べて気分よく我が家に帰ってきた。

その日の夜は寂しがりが暴発したアルベルトによってホールドされた状態で寝ていたようで朝から首が寝違えたみたいな感じでバキバキで首肩背中がおかしなことになっていた

ということでどうしようもなくからだが固まってしまったわたしをどうにかしようとアルベルトは朝っぱらからホウボウに電話をかけている。どうやらオステオパシーの予約をどうにかねじ込んで取り付けたらしい。

しかし正直助かる。なんでもいいから回らない首肩どうにかしてもらいたい。ついでに日頃の職業病とも言える偏頭痛とか腰とか一気にどうにかしてもらいたい。


ついでにと一緒に予約したアルベルトとオステオパシーの施術を受けに行くとわたしはともかくアルベルトは担当の人にこんなになるまでからだをほったらかしにしてはいけません!と、こってり絞られていた。

でなわけで、残りのバカンスフルに使ってオステオパシーに通い詰める羽目になったわたしたちは遠出ができなくなった。

アルベルトも不調なところを今回治してしまおうとふたりしてせっせとオステオパシーやらハマムやらスパエステサロンなどをめぐり倒すことになり、最終週のある日アルベルトと少しだけ遠出してジヴェルニーに来た

わたしたち年老いた夫婦みたいじゃない?ふたりしてオステオパシーに通い詰めるなんてと大きなモネの睡蓮の絵の前で笑っていうと

ひよこちゃんと一緒に年を重ねることができるようになるなんていまでも信じられない。

そう?

うん。

いつもありがとう。そばに居てくれて

うん

お互いに見たい絵の前で1時間ほどぼんやりし
有名な橋のところで夏の終わりを見ている。

ひよこちゃん

なあに?

バカンス台無しにしちゃってごめんね

全然!わたしこそごめんなさい。アルベルトお出かけできなかったね。ほんとうにごめんなさい

僕は何度も言うけどひよこちゃんがいてくれさえしたら場所なんてどこでもいいんだ。嘘じゃないよ。

じゃあ、次のバカンスは必ずアルベルトが行きたいところにしようね?必ずよ?

ありがとう。

かなかなかなと蜩が鳴いている。柳が風にそよいでる

帰ろうか。
そうだね

わたしたちは手を繋いで帰った

アルベルトはいつだってわたしを大事にしてくれる。正直心のどこかでずっと疑っていた。いつか飽きられるんじゃないかって。醒めるんじゃないかって。だけどもう疑うのがバカらしくなってきた。この人のことちゃんと見ようとしなかったのかもしれない。

もうすぐ秋がやってきて金木犀の花が咲くときがやってくる。今年は一人でこっそり金木犀の花の香りを嗅ぎにいかずにアルベルトを誘って深夜の金木犀の香りの散歩をしようと決めている。

バカンス最終の二日前にフレッドは日焼けしてバリ島から帰ってきた。
なんか晴れ晴れとしてる。気持ちのデトックスがうまくいったんだろう。すこぶるいい顔をしている。

ひよこ!色々ありがとな。おかげさまでぐっすり眠れてからだも調子がいい。

ほんと?それはよかった!











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