第一ラボにマーケティング部の責任者として広報部の担当者に同行してもらえないかしら？
と、ミラ部長から内線がかかってきた。
統括部は忙しくさらに掛け持ちでいくつかの担当を持っている自分としては時間を捻出するのもままならないが担当替えの引き継ぎの挨拶とマーケティング長としても挨拶しておいてほしいと言われたらしかたがない。
一時間ほど席を外すと部内の者に声をかけ第一ラボに向かう。

…第一ラボってオガタがいる部署だったよな？
…つかあいつから連絡もらってたな。めんどくせえやつがラボに戻ってきたって。
…ん？第一ラボの担当者てひよこだったな。
あー、だからオレに同席しろってミラ部長はいったのか。

とかなんとかつらつらと考えていたらラボの玄関ロビー前についた。自動ドアがガーっと開くと近くを通っていた研究者がなんでお前がここにいる？！みたいな顔した。

うるせえな、仕事だよ仕事！と思ったが挨拶だけはキチンとする。ここは仕事場。プライベートだったらシカト確実。

受付にある案内板をみて応接室まで長い廊下を歩く。通りすがりにチラチラ見られてヒソヒソささやきあう声が全部耳に入ってくる。悪いが俺はやたら耳がいいからお前らが何喋ってるか丸聞こえなんだよ。

マネージャーがきた！
ひよこたそのマネージャーか？
我等が姫に何用ぞ？
こんなところまで入り込んで何する気だ？
元気いっぱいラブリーイエローひよこたそにまとまりついてるアイツか？

姫とかたそとかラブリーイエローとか訳の分からない言葉遣いしてる奴らは白衣の胸もとポケットにひよこ色のチーフをさしている

…たそ？たそ？我等が姫っつったな今。
元気いっぱいラブリーイエローひよこたそ？？なにその珍妙なあだ名？
そんで胸もとに挿してるイエローのチーフなに？

ハテナがぐるぐる回るし

不可思議な言葉遣いとやたらイエローカラーの何かを身に着けていたりする何人かの研究者の前を通り過ぎていくとドアが開いてオガタが顔を覗かせた。

あ、え？フレデリックさん？
なぜこちらに？

ああ、オガタ。俺はマーケティング部の責任者として来たんだ。

…ああ！！そうなんですね。ありがとうございます！助かります！！！
広報部の皆さんはもうこちらにいらっしゃいます。どうぞ！！

オガタはひどく安心した表情をした。
なんだ？

中に入るとお仕事モードのひよこと引き継ぎと思われる新担当者達がいた。

一瞬ひよこがは？みたいな顔したような気がする。新担当者達は新人なのか緊張しまくっているようなガチガチモードな気がしないでもない。

引き継ぎの挨拶と前担当者の挨拶と
マーケティング部門の研究所への要望とか
資金管理の話とか予算の話しとか
ふつーにふつーの仕事の話をしているのだが
途中でお茶とお菓子を持ってきたヤツは
俺をみた瞬間にげっ？！という顔をし、さらにひよこをみて相好を崩すという明らかに落差ある態度をとった。出されたお茶を飲もうとしたらオガタが一瞬慌てる。目でチラチラこっちをみてくる。

あ、あのうー、無いとは思うんですがなにぶん研究所なものですから、不慣れな研究員が薬剤触ったままお茶とかいれてたらアレなんで…
ちょっとお待ちくださいね。汗ダラダラなオガタは試験紙に皆に出された紅茶を一滴ずつ垂らして確かめてる。

なに？一服盛った茶でも出してんの？と笑うと
ビクっ！とするオガタ。

あ、マジでそれなんだ？
お前もずいぶん苦労してんだな

いや、その常識が通用しないことが研究員にはままあるので…と言い訳を繰り広げるオガタ

ポカンとしてる広報部の面々

結局なんにも盛られたりしてなく
菓子にも細工はされてなく、予想以上にうまい茶と菓子だった。

なんかすごく昨日練習していたみたいで。
とはずかしそうにオガタが言うとひよこはすごく美味しくてびっくりしました。後でお礼を言わないと！！と、満面の笑みでぶっちぎりで褒めちぎりオガタは照れていた。

しかしこれひよこだけきててほんとうに盛られててひよこがうっかり飲み干してなんかあったら。とかいらない想像力が頭を回る。
まあ、そんなことあったら間違いなくアルベルトの逆鱗に触れる事態になるからマジでやめといたほうがいいと思う。まあ、オレもそうだけど。

打ち合わせはスムーズに終わりひよこはオガタに今までの感謝の言葉を述べている。
うんまあ、こいつも立派になったもんだ。感慨深い。成長したなあ。とかなんとか。

和やかな雰囲気のまま応接室から出て長い廊下を玄関ロビーまで皆で歩いていると突然別の部屋からドアが開き何回かあったことあるめんどくせえやつが出てきていきなりひよこの前に立ちはだかり通せんぼのように両手を広げて立ちはだかった。

なにしてんだこいつ？と思ったがオガタをちらりと横目にみるとグアア最後の最後に何してくれてんだ？！とかいう雰囲気が駄々漏れしている。

そいつはひよこしかみてないみたいで他にいるメンツはまるっと無視か見えていないようだ。

あの？何かご用事ですか？
と努めて柔らかい口調でひよこは尋ねた。
刺激しないようにわざとゆっくりおっとり柔らかい口調と微笑。

なにか用？とオレが聞くと
噛みつく勢いでマネージャーはすっこんでろと
いわれる。

なんだこいつ。めんどくせえやつ

あのそのっ！
はい。
ひよこさんっ！
はい。
ずいぶん前からあなたをお慕いしておりまして！

はい…

だからその…あの…お慕いしているんですっ！！！

ひよこはピンと来ていない

オガタは何してくれてんだみたいな顔をしてるし、敏い後輩引き継ぎふたりは今ここでそれ？みたいな顔してるし、俺も次の予定がある。

はい、今仕事中だから終わり。とバッサリ斬ってやった。

目がランランとしているお前から告られても恐怖しかねえよ。とか思うがパニクるそいつには一切話しは通じない。

うるさいマネージャーはすっこんでろ！
マネージャーじゃねえよ
保護者はすっこんでろ！

フレッドはマネージャーじゃありませんよ？

ひよこ氏！ならなんなんだ、
キミの何なんだ！！アイツはいつもつきまとってるじゃないか！！

…

あー、何言っても聞いてないなこれ。

オンですか？オフですか？

ならオフ！

オンは頼りになる信頼できる尊敬する上司です。仕事のやり方進め方はわたしも見習うところがたくさんあります。

…ほう？と気のない返事をするあいつ

へえ、ひよこそういう風にみてくれてんだ。
なんかこそばゆいな。

オフは…
躊躇うように口ごもるひよこ。

オフは…わたしの大切なひとです。わたしのパートナーを傷つけたり貶めるような発言を今後控えてください。

え？…えーっと？

うろたえるあいつ。オレもだけど

でもでもたそ、保護者でしょ？

だからなに？！

あれ？ひよこキレた？

保護者だからなに？
周りに理解してもらう必要もないけど。わたしの、、わたしの愛するひとです！
そんな、大切て愛するひとにになにかしたら許さない。わかりましたか？！！

シーンと静まり返る廊下とそこにいた全員

え、あれ、なにか言おうとしたがすっかり忘れてしまった。

お騒がせしました！とひよこは周囲に平謝りしている。後輩引き継ぎふたりはは先輩惚れる。とかかっこいいとかなんかほわーとしている。
オガタと目が合う。
すいませんすいませんみたいな顔したあとに
ニヤリとされた。

なんで？

玄関ドアまでそこにいた研究員全員が集まってきてなぜか見送られている。

ひよこはテンションぶち上げなのかしらないがいきなりオレの手を取って手を繋いできた。

？？なに突然？？
いーじゃない。事実なんだから。

…仕事場だぞ？

いけませんか？

やたら勢いつけて言われたので
返す言葉もない

いや、悪くない

ならいいじゃない。

わざとやっているらしい。

しばらくそのまま歩いてもういいんじゃねえの？アイツらもう姿見えないし。
と言うとわたしがしたいからいい。と言う

わざとやっているのはいつもオレのほうだからちょっとだけ面食らう。

お前あの、あれ

なに？普通モードに戻ったみたいなひよこはいつもと同じ口調でへらっと笑う

やっちゃった！あはは！

あははて、お前

いーじゃん

ふうん

不満？

いいや、全然。

王子様を守るのはお姫様の役目なのっ！

は？

お姫様は守られるだけじゃないのよ？王子様を守れるくらいでなきゃ！

ふうん？

約束したよ？忘れた？

いや、忘れてない。

幸せにしてあげる。守ってあげる。って約束したよ？わたし。できてるかどうかはまだ怪しいものだけどさっ

はああ、もう。ヤラれた

お姫様を守るのが王子様の相場の役割なんだが…

ガイドを守るお姫様がいてもいーじゃん！
じゃあ、ガイドを守るガイドにわたしがなればいいのよ

まあ、なあ。斬新だな、それ

だからさっ。わたしが守ってあげるから安心して幸せになればいいのよ。

なってるし、既に。

あらほんと？よかった。

ほんとお前は…まったく

まったくなんですの？

はー、もうお手上げで苦笑い。
ほめてる？けなしてる？

ほめてる。

ならお言葉に甘えて幸せにしてもらおうかな。もっともっとな。

任せて！うんと幸せにしてあげる。

現代のお姫様は気概がすごい。さすが最愛推しだけある。推せるしかないじゃないか
推せる要素しかない。

ふはっ

なんでわらうの？

お前いつまで手を繋ぐつもりなんだ？
このまま早退するつもりなの？
まあ、それでもいいけど？

いや名残惜しいけど離すしかないわね。
名残惜しいのは実は自分のほうだったりもする。

しかたねえな、なら
夕方きっちり王子様らしくお姫様迎えに行ってやるから

楽しみにしてる。

任せろ。お前をドン引きレベルまで追い込むからな？

何に？

はは。秘密。じきにわかる

大切で愛する人か。
今頃ニヤニヤしてきた。
いかん、次の打ち合わせまでに平静に戻さねば。