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400字映画感想「とべない風船」

作中人物は皆、それぞれの辛さを抱えている。
災害、病魔、教員のメンタルヘルス。
監督は当事者へ緻密な取材を行い、虚構ではないストーリーを紡ぎ出した。
搭乗人物それぞれの人生が作り込まれ、それらは明言されずとも、映画の端々に見え隠れしている。
丁寧な裏付けにより、舞台は架空の島であるにも関わらず、初見の人にとっても故郷のような懐かしさと温かさに満ちている。

東出の演じる漁師・憲二は、災害で妻子を失い、周囲に対して不愛想な態度を取るが、時には彼を取り巻く人々と温かな時間も送っている。
無垢な子供たちとの触れ合い、コミカルな青年漁師との掛け合い、それらは作中の止まり木のような存在であると語られた。
重い問題を取り扱った作品でありながらも、辛くなりすぎない。

海によく似た映画だ。
明るく麗らかなときも、暗く荒れたときもある。
そして青空が明日に続く。
人生そのものにもよく似ていて、まるで人生賛歌のような映画だと思った。

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