400字映画感想「寝ても覚めても」

初出: zoomトークショー「相田冬二、映画を語る」に参加した際、私が提出した課題感想文です。 2020/04/30

東出は一人二役を演じ、同じ顔の二者は対峙した。

穏やかな笑みを蓄える麦と、憎悪を露わにさせる亮平。
互いが互いのグロテスクさを際立たせる。
東出の内包する演技力が恐怖的なまでに表現された場面だ。

私は東出の怒りの演技が好きだ。
それまで平凡な善人だった亮平は、その瞬間、ひとりの人間へと厚みを増した。

東出は、その体躯と生まれ持った人当たりの良さ、その二要素によって共演する者を絶対的なヒロインにする。
悲しいほどの善人である亮平は、豹変するほど恨み憎んだ女性すらをもヒロインにしてしまったのだ。

私は彼に平凡な幸せを取り戻してほしかったが、それは叶わなかった。
一生許さないと宣言した彼女を家に迎え入れ、複雑な感情を抱えたまま、濁流を見つめて終わる。それは非常階段を逃げる彼女の唇を奪った時点で、亮平自身の決めた運命だったのだろう。

スクリーンの向こうの私は、どんなに彼を案じても、決してヒロインにはなれないのだから。




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