ルームメイト(仮)

天使って見たことありますか
いや、そもそも天使って信じますか

突然すみません。でも、
僕が自分の部屋に帰ったらいたんです
背中から白い羽が生えていて
「ああ、天使なんだなぁ」って妙に納得してしまいました

言葉は通じました。日本語です

迷惑をかけないから僕の部屋に居させてくれと言われました
金ならあるとも
「人みたいだ」とおかしくなって、つい了承してしまいました
いわゆるルームメイトの誕生です

生活は特に何の変化もありませんでした
迷惑を被るなんてありませんでした
ただ、ルームメイトがいるだけです
なぜここにいるのか何者なのか天使なのか
何事もなく済んでいたので
次第に気にならなくなってしまいました
話してみるとおかしなことですよね

よく、料理をつくってくれました
何でもつくってしまうんですよ
得意料理は麻婆豆腐と言うだけあって
「これが本場の味かぁ」と本場を知りもしないのに
うなずいてしまう程うまかったです

料理で言えば
「君は音を立てて麺をすする。腹立たしい」と言っていました
理由が説明できなかったので
僕は苦笑するしかありませんでした

あと、泣き上戸ですね
僕が彼女と別れてしまった夜です
コンビニでお酒をしこたま買ってきたらしく
「今日は飲むぞ」と迫られました
ただ、飲み始めて三十分もたたない内に
「悲しいさびしい」と泣き始めてしまって
おかげでこっちは泣くタイミングを失ってしまいました
こうやって話してみると人間みたいですね

でもやっぱり人間ではないと思います
タバコを喫うですよ
それは別にいいんです。僕も喫いますから
ただ喫ったタバコの煙が消えないんです
喫った本人のまわりを滞留していました
羽と同じ白さの煙がうねる根のように流れる水のように
滑らかに曲線を描く煙
芽吹き脈づく気配が流れてきます

僕はその煙に触れたいと思いました
どこか欲情に近いかもしれません
触れたい
でも、その行いがどんなに畏ろしいかも僕のどこかが知っていて
その時ばかりは気持ちよくて苦しくてこわかったです

煙を吐いた当の本人はそんなことつゆ知らず
煙をずっと見つめているんです
見つめていたら唐突にうなずくんです
すると煙は消え始めていきました
「まさか神様からのお告げか」とちゃかすと
「まあ、そんなところ」と不敵な笑みを返されてしまいました
さすがにこういうときは
「ああ、人間ではないんだなぁ。天使かな」と思ってしまいました

それについ二日前なんですが
音を立ててそばをすする理由を人に教えてもらったんですね
だからこれは教えてやらなければと急いで帰ったんです
そうしたらいなかったんです
いなくなってしまったんです

置き手紙もないし僕の部屋にいたという気配もない
実は名を教えてもらったのに、その名すら思い出せなくなりました

だから納得してしまったんです
「ああ、天使なんだぁ」って
驚いたし怒りました。さびしくもなりました
でも、あきらめもあったんです
だって天使ですから
またあらわれたら
とりあえず
音を立ててそばをすする理由を教えてやるつもりです
納得するかどうかはわかりませんが


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