インターネット生活者の手記

俺は病的な人間だ……俺は意地悪な人間だ。俺は人に好かれない人間だ。しかも内臓が悪いらしい。もっとも、俺は自分の病気のことなど全くわかっていないし、それに自分の体のどこが具体的に悪いのか、それさえ確かなことはわからないのだ。俺は医学や医者を尊敬してはいるけれど、医療というものを受けられるお金がない。

俺が医者の治療を受けられないからといって、それでなにか世界が変わるわけでもないのは、自分でもよく承知している。そんなことをして損をするのは自分一人だけで、ほかのだれでもないということは、百も承知なのである。が、それにしても、俺が治療を受けないのは、やはり金銭的問題のためなのだ。身体が悪いのなら、もっともっと、うんと悪くなるがいい!

俺はもう前からこんな生活をしている、いま俺はアラサーだ。以前は役所に勤めていたが、いまは家がある浮浪者のようなものだ。俺は卑屈な役人だった。俺の担当する回線へ、多様な人々がいろんな問い合わせなどしてくると、俺は「へえへえ、左様でございますか、ご主人さま方!」と、必要以上に卑屈にでていた。しかも、それは大抵うまくいった。彼らはおおむね臆病な連中ばかりだった。善人というやつである。これはまだ俺の若かった頃の話である。しかし、諸君、俺の最も悪い点がどんなところにあったか、諸君に想像がつくだろうか? そうだ、もっとも肝要なのは、──最もいまいましい話というのは、ほかでもない、俺は高慢な人間でないばかりか、世を拗ねた人間でさえもなく、ただいたずらにかわいい雀のような連中に卑屈に出て、ようやく自らを慰めているにすぎないということを、一刻一分の止む間なく、──思いきり癇癪を破裂させた瞬間でさえ、羞恥の念をいだきながら自覚する、その点にあったのである。

たとえ口から泡を吹くほどいきり立っていても、もしだれかが俺に葉巻の一本でも当てがってくれるか(俺はもう禁煙しているがね)、ウィスキーのお湯割りにシナモンでも添えて持って来てくれたら、それで俺はおとなしくなりかねない人間なのだ。それどころか、心底から歓喜の念を禁じ得ないであろう。そのくせ、きっと自分で自分に歯がみをするくらい腹を立てながら、恥ずかしさのあまり、何か月も何か月も、不眠症でくるしむに相違ないのだ。それがもう俺のきまった癖なのだった。

さっき俺が卑屈な役人だったと言ったのは、あれは自分で自分を中傷したのだ。依怙地になってわざと中傷したのだ。本当はそれどころか、まるで反対の要素が、自分の内部にあまるほど充満しているのを、ひっきりなしに感じた。そいつが、その正反対な要素が、俺の体の中でうようよしているのだ。これが生涯、俺の内部でうようよしながら、どうかして外へ出ようとしていたのは、自分でもちゃんとわかっていたけれど、俺はそいつを出さないように抑えていた。わざと外へ出さないようにしていたのだ。それが恥ずかしくて、顔から火が出るほど苦しんだ。体中痙攣で慄えるほどの苦しみだった。

それでも、──結局あきあきしてしまった。それこそうんざりしてしまったのだ! しかし、諸君、いま俺は何か後悔して、諸君にゆるしでも乞うているように思われはしないだろうか?……きっと、そう思われるに違いない……もっとも、誓っていうが、たとえそう思われたって、俺には同じことなのだが……

俺は単に意地悪な人間ばかりでなく、結局なにものにもなれなかった。悪人にも、善人にも、卑劣漢にも、正直者にも、英雄にも、虫けらにもなれなかった。今や俺は自分の片隅に最後の日を送りながら、「賢い人間は本気で何かになることはできない、ただ馬鹿が何かになるばかりだ!」というなんの役にも立たない毒々しい気やすめで、自分で自分を愚弄している体たらくだ。

そうだ、二十一世紀の人間は精神的な意味で、もっぱら無性格な存在たるべき義務がある。ところで、性格を有する人物、すなわち活動家はもっぱら浅薄な存在でなければならない。これは俺の三十年来の持説である。俺はいまアラサーだが、しかし、約三十年といえば、これはもう人間の全生涯だ。それこそもう大変な老齢である。三十年以上も生き延びるのは無作法だ、卑劣だ、不道徳だ!いったいだれが三十以上も生きていやがるんだ? 正直に誠実に答えてみたまえ。では、俺がそれに答えよう。馬鹿と恥知らずだけが三十以上も生きるのだ。

諸君、おそらく諸君は、俺が諸君を笑わすつもりでこんなことをいうのだ、と思っていられるだろう。とんでもない間違いだ。俺は諸君の考えていられるような、或いは諸君の考えられるかもしれないような、そんなユーモアのあるようなな男ではけっしてない。

俺は食わんがために(ただそれのみのために)、勤務していたが、月に200時間を超えるサービス残業に精神をやられ、紆余曲折あって俺は辞表を提出せざるを得ず、それから自分の小さな片隅に閉じこもってしまった。俺は前から人見知りのところがあったが、今では完全に自分の殻にに閉じこもってしまったのだ。俺の部屋は小汚い哀れなもので、町はずれにあるのだ。隣人たちは年金暮らしの爺さんたちで、意地が悪く、おまけにいつも尿と安酒の鼻をつく臭いをぷんぷんさせている。


疲れたので今日はここまでだよ〜

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