見出し画像

【お菓子】干し芋シフォンケーキ 〜トレースとオリジナルとリベンジ〜(2022年のメモ)

 今週二度目のシフォンケーキを焼いた。観客のいないプレイのようなレシピ確認のためのベーキングである。
 私の記憶は、小さなジオラマのように閉鎖的で、天気・空気・温度・匂い・気分、そして連続的経験のどの時点であるかの条件がカプセルのように閉じ込められて、一部だけを思い出すことはできない。どれか一つを紐解くと、記憶が目の前に溢れだす。しかし、とっかかりが見つからないと、蘇ってくれない。逆を返せば、あーだったこーだったと他人に言われても、その時の風の感じとか思い出せなければ、杳としてしれないのである。
 いい例が先週のバタークリームだ。そもそもバタークリームにはいくつも作り方がある。さらに言えば食べ物なのだから、無害で美味であればなんでも良いはず。だからどのレシピでも間違っていない。だから調べ尽くした挙句ヒットしたそれで作ったが、どうもピンとこなかった。過去に3回も作っているのに、だ。日記をアップしてから、以前はサブレサンドのクリームとしてではなく、ビクトリアケーキのクリームとして作ったのが最初だったことを知った。先週のレシピがどうも他人のようにそらぞらしく感じたのは当然だ。一方、いったんビクトリアケーキのあれだと知れると、記憶はどんどんペタルを開いた。ビクトリアケーキは有塩バターを使っている。そのため、甘さと塩味の両方がたった濃い味ケーキになっている。それが独特なところなのだがこれを焼いた時、さて無塩で作ったらどうなるかしら、と思ったのがバタークリームサブレを作るきっかけだ。noteに残しておいたおかげで日々に流れていってしまう記憶に歯止めがかけられたわけだ。

 くどくど書いたが、そういうわけで今回も、記憶保存のための日記である。
 そもそも干し芋などという乾物をケーキに焼こうって言うことにしたのは、たいへんおいしい干し芋を山ほどいただくわけで、貴重で高価ときき冷凍保存もしているのだけど、焼いて食べる以外に使い道がなく、一人で食べきれない。それに加えて、歯応えがあって香ばしい干し芋が、ふわふわでほんのり甘いシフォンケーキになったら、その逆転的な変化が意外で非常に美味しいんじゃないか、という発想だ。
 一回目は、何十回と使っている板チョコから作るチョコレートシフォンケーキのレシピを応用して作った。干し芋は、コアントローを注いで密閉容器で電子レンジにかけ一晩置いた。それをペースト状にすることで、湯煎でチョコを溶かすのと同じ状態にした。レシピで変えたのは添加する砂糖の量で、チョコはすでに十分の糖度があるため、それに近づけるため干し芋ペーストにも加糖した。シフォンケーキは卵白生地と卵黄生地を別に作り合わせて焼くのだが、この時点で卵黄生地はもったりと重くパウンドケーキのような仕上がりになるのが予想された。

 決して失敗ではないけれど、見てお分かりの通り表面の濃い色合いが糖度の高さを表している。コアアントローの香りもして美味しいが、夕食の後にお酒と一緒にいただくお菓子みたいで、作りたい味とは違った。

 どこに納得できなかったのか考え気づいたのが以下の点

  1. 甘すぎる。干し芋はほんのり甘いくらいがちょうどいい。

  2. 固すぎる。シフォンケーキの生地が繊維のように広がっていなくては。

  3. 香りが違う。 洋酒は間違っていないが、これでは干し芋が入ったケーキになってしまう。干し芋がシフォンケーキになった、というイメージにするには・・・。

 シフォンケーキは、卵白をあわ立て力で膨らませるお菓子。油分の量によっては膨らまないこともある。何度もトライしている中で、卵黄生地を作っている間に小麦粉やその他の素材とうまく乳化させることができれば、冒険もできることがわかった。ピスタチオのスプレッドを入れて緑のシフォンを焼いたこともある。それを思い出し、あえて溶かしバターを入れることにした。焼き芋と言ったらバターでしょ。しかしシフォンケーキの油分といえば植物性のオイルと相場が決まっている。同じ焼き菓子なのにバターを使わないのにはきっと理由があるはずだが、バターの香りは干し芋に合わないはずがない。しかも加えるべき油分も入れられる。上記の3はこれで解決できる。
 干し芋のペーストを作るための水分は、洋酒ではなく湯を使うことにした。柔らかくなったところで水を捨て、芋だけをプロセッサにかける。分量の水を加えるが、固すぎれば増量してメレンゲが膨らませられる柔らかさまで伸ばす。さらに、前回はチョコの糖分を考えて加えた砂糖は入れない。作ってみなければわからなかったことだが、干し芋はほんのり甘い。たとえ干し芋をペーストにしても甘さの度が過ぎれば干し芋の味と感じれなくなってしまうのだった。
 要するにリッチな干し芋ペーストを目指してはいけない。薄くそこはかとなく干し芋を主張するペーストを作り、それを焼きこめばいいのだった。アクセントに控えめな白胡麻をたっぷりと入れた。

 最初のコッテリコックリな濃厚干し芋ケーキと違い、駄菓子屋に並んでいそうな素朴なシフォンケーキができた。そもそも駄菓子屋にシフォンケーキは並んでいないが。ま、蒸しケーキみたいな、味ということ。

  • トレース=誰かのレシピをまねる

  • オリジナル=そのレシピに自分なりにアレンジを加えて独自のレシピを作る

  • リベンジ= アレンジを加えても自分のものになっていない真似っこレシピに試行錯誤を加えて理想通りを作る

 お菓子の話。でもこうやって自分のを作るようになるのに、3年以上かかっている。イイ歳になってやっと、弟子とか修行とか、年数勝負の話の意味が理解できようになった、という話でもある。

(写真とは関係ありません)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?