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【ネタバレあり】映画『メリー・ポピンズ リターンズ』感想【これはリターンではなくリプレイだ】


こんにちは。これです。


早速ですが今回のnoteも映画の感想になります。今回観たのは『メリー・ポピンズ リターンズ』。1964年公開の映画『メリー・ポピンズ』を現代に甦らせた作品です。今回観るに当たって前日にちゃんと『メリー・ポピンズ』を見てから臨みました。


そして、観たところ前作に負けず劣らずいい映画だったので、今回のブログはその感想を書いていきたいと思います。ただ、めっちゃ褒める気だったんですけど、気づいたら批判の方が多くなってしまいました。褒めるって難しいですよね。今回書いていてそれを痛感しました。


では、この流れでなんですが、感想を始めたいと思います。今回も何卒よろしくお願いいたします。








―目次― ・最大の長所―ミュージカルシーン― ・俳優さん、吹替がよかった ・ツッコミどころについて ・異常な懐古主義がもたらしたリプレイ





―あらすじ― 大恐慌を迎え暗く厳しい時代のロンドン。バンクス家の長男でありかつて少年だったマイケル・バンクス(ベン・ウィショー)は、今では自らの家族を持つ親となっていた。 かつて父や祖父が働いていたフィデリティ銀行で臨時の仕事に就き、3人の子どもたち、アナベル(ピクシー・デイヴィーズ)、ジョン(ナサナエル・サレー)、ジョージー(ジョエル・ドーソン)と共に、桜通り17番地に暮らしていたが、ロンドンは大暴落の只中で金銭的な余裕はなく、更にマイケルは妻を亡くしたばかりだった。  子どもたちは「自分たちがしっかりしなくては」と躍起になるが上手くいかず、家の中は常に荒れ放題。さらに追い打ちをかけるように、融資の返済期限切れで家を失う大ピンチ! そんなとき、魔法使いメリー・ポピンズ(エミリー・ブラント)が風に乗って彼らのもとに舞い降りた。20年前と同様にバンクス家の子どもたちの世話をしに来たと言う彼女は、一風変わった方法でバンクス家の子どもたちの “しつけ”を開始。バスタブの底を抜けて海底探検をしたり、絵画の世界に飛び込み、華麗なるミュージカル・ショーを繰り広げる。そんな彼女に子供達は少しずつ心を開き始めるが、実は彼女の本当の魔法は、まだまだ始まったばかりだった…。 (映画『メリー・ポピンズ リターンズ』公式サイトより引用)





※ここからの内容は映画のネタバレを含みます。ご注意ください。





・最大の長所―ミュージカルシーン―


まずこの映画の最大の強み。それはミュージカルシーンです。前作『メリー・ポピンズ』でも、歌って踊って物語に彩りを加えていましたが、同じ『メリー・ポピンズ』の看板を背負っているだけあって、『リターンズ』でもミュージカルシーンに一番力が込められていました。


借金の返済にピンチのバンクス家。そこにメリー・ポピンズが帰ってきます。メリー・ポピンズはバンクス家の3人の子供が汚れているのを見て、風呂に入るように言います。バスタブに湯を張り石鹸を泡立て、ヒヨコや海賊船などを次々に投入。子どもたちがバスタブに入るとそこはなんと海底に通じていました。バスタブの中の海を自由に泳ぐメリー・ポピンズと子供たち。海賊船をすり抜け、魚にハイタッチ。まるで空を飛んでいるように泳ぎ回っていて躍動感がありました。明るい音楽に乗せられてこちらの気分まで高揚してきます。イルカが船の上を飛ぶシーンは綺麗でしたね。


次に、子供たちは借金の返済方法を考えます。そこで思いついたのが、母親が気に入っていた壺を売ってお金を工面するという案。しかし、壺には亀裂が入り絵の中の馬車の車輪は外れてしまいます。これを直すためにメリー・ポピンズと子供たち、それとジャックは壺の中に入ります。メリー・ポピンズが壺を回して水色の花が舞い上がる予告編にもあったあのシーンです。


壺の中に入った5人。いかにもディズニーなアニメーションの世界に溶け込み馬車を修理します。そして5人が向かったのは、華やかなミュージカルが開演されるロイヤルドルトン・ミュージックホール。ここでジャックとメリー・ポピンズがステージに上がり、二人によってミュージカルが開演します。本の表紙に例えて「大切なのは中身」だと歌う二人。軽やかな踊りとユーモアの利いた例え話、それに前作にも出ていたペンギンが再登場し、ミュージカルは絶好調。とても楽しいシーンで映画によりのめり込ませてくれます。二人の紫のお揃いの衣装も印象的でした。


その後も逆さまの部屋で言葉遊びを交えて踊るシーンもありつつ(あんなに踊るメリル・ストリープは今日日見れるものではない。貴重。)、最大のハイライトはジャックをはじめとした点灯夫たちが踊るシーン。前作の煙突掃除人のダンスシーンを思わせるこのシーンは、一番尺を取ったこの映画の見せ場です。一糸乱れぬ動きで鮮やかに踊り続け、前作にはなかったモトクロスの要素も入れてパワーアップ。「小さな火を灯せ」という歌には勇気づけられます。迫力もばっちりで確実に満足できるはずです。


これらの他にも歌やミュージカルシーンはどれも素晴らしいものなので、これは映画館の音響と大スクリーンで見てほしいなって思います。CG技術も発達していて前作よりずっと滑らかでダイナミックなんですよね。その迫力に圧倒されます。それにアニメーション技術も進歩しているので、中盤子供たちを乗せた馬車と、悪のウルフたちがカーチェイスを繰り広げるシーンがあるんですが、これが全く違和感がなくてすごい。高いレベルで溶け込んでいて実に楽しかったです。これらの映像と音楽を味わうだけでも1800円の価値はありますね。







・俳優さん、吹替がよかった


まあ、ここで語るまでもなく俳優さんたちは全員良い演技してたんですよね。エミリー・ブラントは前作よりも高圧的な(こっちの方が原作に近いらしい)メリー・ポピンズをとても美しく演じていましたし、毅然とした態度が新鮮でした。街頭点灯夫のジャックを演じたリン=マニュエル・ミランダはいい意味で前作のバートを現代によみがえらせたようなキャラクターでしたし、マイケル・バンクスを演じたベン・ウィショーは時おりのぞかせる弱さが魅力的でした。


ただ、私が見たのは吹替版。この吹替もよかったんですよね。ジャックの声を当てた岸祐二さんやマイケル・バンクスを担当した谷原章介さんは数多くの舞台を経験されているので実力は当然あるんですけど、それ以上に素晴らしかったのがメリー・ポピンズの声を当てた平原綾香さんでした。


平原さんっていうのは皆さんご存知の通り超実力派の歌手なわけですよ。歌の素晴らしさっていうのは当然保証されているので楽しみにしていたんですけど、想像を上回るほどでしたね。時に語りかけるように、時に透き通った声で、時にパワフルにまさに変幻自在で映画のムードを形作る決め手となっていました。正直台詞はちょっと固いかなって思うときもあったんですけど、それを補って余りある歌でしたね。私の観た映画館でも字幕よりも吹替の方が上映回数が多かったんですけど、それも頷ける完成度の高さを誇っていました。







・ツッコミどころについて


ここからはこの映画へのツッコミどころ、もといあまり良くなかったかなという点を挙げていきたいと思います。まずその①。『メリー・ポピンズ リターンズ』の大まかなストーリーは、母親が死んだ→そのときに出費がかさんで借金をしてしまった→借金を返せないと家が差し押さえられてしまう→どうにかしなきゃというものなんですよね。ここで私は、いやいやお父さん銀行の重役だったよね?いくら大恐慌時代だとしても生活に貧窮するほど貧乏になるのは急じゃない?って思ってしまったんですよ。いくら株に代えているとはいえ家にもっとお金残せただろうって。それが最初のツッコミどころです。


続いてその②。メリー・ポピンズと子供たちについてです。前作のマイケルとジェーンは親の言うことを聞かない困った子でしたが、今回の子供たちめっさお行儀がいい。風船を買いたいと言っても買い物があるから我慢するくらいには分別がある。もう大人だよって言い張り躾ける必要もないくらいです。


彼らはメリー・ポピンズと出会い、彼女の魔法に魅せられていきます。海底を探検し、壺の中でミュージカルを見て、逆さまの世界を楽しんで、点灯夫と踊る。メリー・ポピンズと過ごしているうちにどんどんと彼女に頼るようになっていきます。もうべっとりと。それ自体は別にいいんですが、展開が進むにつれてあまりにメリー・ポピンズを頼るようになっていくんです。


差し押さえ期限に間に合わない。なんとかしてよメリー・ポピンズ(そんなドラえもんみたいな)。そしてビッグ・ベンの時計台の前に辿り着いた3人とメリー・ポピンズ。ジャックをはじめとした点灯夫が決死の思いで時計台を登り、メリー・ポピンズが時計の針を戻す。時計台のシーンは臨場感があって素晴らしかったですが、このとき子供たちは何もせずただ突っ立っているだけでした。そして、事態は収束し冒頭にも出た公園で風船を買ってとせがむ子供たち。ん?子供たち全く成長してないよね?


確かメリー・ポピンズは子供たちの教育係を買って出たはずですよね。でもどんどんと子供たちは彼女によりかかるようになっていって自立とは遠ざかっていく。成長とは真逆の方向に進んでいたんですよ。正直メリー・ポピンズは教育係としてはアレでした。でも、このあたり良くも悪くも前作を受け継いでいると思います。前作も子供たちそこまで成長したっていうわけではありませんでしたから。


あと、この映画のテーマの一つに「子供心を取り戻す」っていうことがあるんですよ。この映画の最後にマイケルとジェーンは子ども心を取り戻していて、そういう意味では筋が通ってていいとは思うんです。でも、子供たちは成長せず大人たちは退行する。そして風船を手に舞い上がるしかない。怖くないですか、これ。大人がいなくなってブレーキがかからなくなるんですよ。私にはメリー・ポピンズが願望をなんでも叶えてしまっていた弊害に思えて、見た目は楽しいんですけど不気味さを感じてしまいました。これがツッコミどころのその②です。







・異常な懐古主義がもたらしたリプレイ


さて、『メリー・ポピンズ リターンズ』の最大の問題点。それは前作『メリー・ポピンズ』ありきの映画になっているという点だと私は考えています。続編である以上前作ありきなのは当然なんですけど、『メリー・ポピンズ リターンズ』ではそれが行き過ぎていると思うんですよね。


この映画の序盤に元海軍のお爺さんたちが大砲で時報を告げるというシーンが描かれています。ただ、正確に時を刻む「ビッグ・ベン」の登場により、お爺さんたちの時報は遅れてしまっているんですよ。ここで「ビッグ・ベン」は進んでいる現代を、お爺さんたちは取り残された過去を表していると私は考えました。取り残された過去というのはつまりは前作『メリー・ポピンズ』そのものです。


しかし、映画終盤においてお爺さんたちと「ビッグ・ベン」の時報は一致します。それはお爺さんたちが「ビッグ・ベン」に合わせたのではなく、「ビッグ・ベン」がお爺さんたちに合わせたから。私としてはこのアプローチにちょっと問題があるかなって。だって過去が現代に向かっていくのではなく、現代が過去へと戻ってるんですよ。これは現代を生きるお客さんに、過去の『メリー・ポピンズ』に合わせてくれって言っているようなものじゃないですか。


55年前の名作を現代によみがえらせるっていうことは、当然時代に合わせた翻訳っていうものが必要になってくると思うんですけど、『メリー・ポピンズ リターンズ』ではその翻訳がそれほどなされていなかったように私は感じました。確かに普遍的な良さはあるんですけど、それだけで勝負できるもんじゃないでしょって。



さらに、納得いかないのが問題の解決方法。前作のキャラクター「ミスター・ドース・ジュニア」が現れて事態は丸く収まります。確かに前作でバート役を演じたディック・ヴァン・ダイクがスクリーンで見れたのはよかった。御年92歳とは思えないタップダンスも流石だった。それは揺るぎません。ただ、違うなと思うのは前作のキャラクターが決め手となって解決してしまうことなんですよ。


ほら、漫画とかでも続編で前作のキャラクターが出てくることってあるじゃないですか。それで今作のキャラクターと共闘したりするのは最高に熱い展開なんですけど、トドメは今作のキャラクターが刺してくれよって思うんですよね。今作で生じた問題を今作のキャラクターが解決するからこそカタルシスがあるわけで、ぽっと出の前作のキャラクターが全てやってしまってもこっちは盛り上がらないわけですよ。前作のキャラクターはそんなに出しゃばってほしくないと思うんですよね。その意味じゃポケットモンスターSPECIAL(通称ポケスペ)の第3章は最高だったなあ。最後はしっかり今作の主人公が決めるっていう。いいですよね。


あれ、なんでポケスペの話になってるんだろう。話を戻します。『メリー・ポピンズ リターンズ』は前作のキャラクターが出て来るっていうのはいいんですけど、問題は彼がいないと事態が解決していないっていうことなんですよね。だって彼の一声がなかったら家も差し押さえられていましたから。あたかも神の万能アイテムみたいで、何だったんですかね。「『メリー・ポピンズ』最高!」ってことが言いたかったんでしょうか。


でも、この「『メリー・ポピンズ』最高!」ってつまりは懐古主義ですよね。元海軍のお爺さんたちが是として肯定されるのも、「子供心を取り戻す」ていうテーマもつまるところは「昔はよかった」っていうことじゃないですか。あの素晴らしい日々をもう一度。前を見ることなく後ろを振り返って立ち止まっている、何なら戻ろうとしているのは自分がそうである次回も含めてちょっと気に食わないです。


そして、この異常な懐古主義がもたらしたのは、「帰って来る」という意味の「リターン」ではなく、「再演」という意味での「リプレイ」です。だってやってることほとんど同じなんですもん。問題のある家族の前にメリー・ポピンズが現れて魔法にかける。その細部もアニメーションとの融合やモブも巻き込んだ踊りなど、パワーアップこそしていたものの前作と変わりありません。見せ方も工夫されてはいましたけど、それもこの映画の印象を変えるには至らず。膨大なお金をかけて名作を甦らせるということでは意味のある作品でしたが、前作以上のことを描いているようには私にはどうしても思えませんでした。



とここまで散々グチグチ言ってきたんですけど、このあたり映画観てる時にはさほど気にならなかったんですよね。ミュージカル楽し―とかエミリー・ブラント綺麗ーみたいなことばっかり考えていて、映画終わった後に「あれ?おかしいぞ?」って。そういう意味じゃ『メリー・ポピンズ リターンズ』は私に見事に魔法をかけてくれました。何にも考えずに(眠かったのもある)観れたので、いろいろ考えすぎてしまう現代の人たちに合っている映画だと思います。







以上で感想は終了となります。特に後半はいろいろ言ってきたんですけど、トータルでいえばですので。否の方が長くなっちゃいましたけど、間違いなく良い映画ではあるので、興味があれば観てみてほしいですね。その際には前作『メリー・ポピンズ』を観てから行くことをオススメします。


お読みいただきありがとうございました。

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