はじめての鉄板ナポリタン

食べたことのない食べ物を、それを再現した味のポテトチップスを介して初体験するということが、人生にはある。一体この現象はなんなのか。ちなみにトリュフの香りはポテトチップスで知った。なんだそれは。

「鉄板ナポリタン」とはなんぞや。どっかの地方のB級グルメなのか。その辺はあえてググらないでおこう。こうして食べている以上、あくまでも「オー・ザック 鉄板ナポリタン味」を媒介としてアプローチしたい。ひとつのヒントとして、パッケージには鉄板に乗ったナポリタンの写真ともに「香ばしいおいしさ」と表記されている。言われてみれば口の中がなんとなく香ばしい気もしないでもないが、それをはっきり感知できるような上等な舌を持ち合わせてはいない。

というわけでさらに文字情報に頼ろう。パッケージの裏にはこう書いてある。

「あつあつの鉄板で香ばしく仕上げた、甘酸っぱいナポリタンのおいしさを表現しました」

ポテトチップスの「〇〇味」が「味の再現」ではなく「おいしさの表現」であるとなると、謎は深まるばかりだ。負けた後に「自分たちのサッカーを表現できなかった」とか言うサッカー選手もいるが、やはり謎は深まる。「表現」は客観性に欠ける言葉だ。そもそも鉄板ナポリタンの味を知らない上に、他人が感じた鉄板ナポリタンのおいしさ、さらにその表現となると、もはや絵の具をぶちまけた抽象画が袋から出てきたとしても反論できない。

なんとなく普通のナポリタンよりは少し味が煮詰まった感じのような気もするが、これが果たして鉄板ナポリタンの表現なのかどうか。いつか本物の鉄板ナポリタンを食べることがあったとしても、究極的には答えは出ない。ポテトチップスを介した初体験には、この迷宮入りの感覚、あてのない浮遊感がはじめから内包されてる。「表現」となればなおさらだ。結論、鉄板ナポリタンはきっとおいしい。なぜならとりあえずナポリタンだからだ。なんだこれは。

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桂一朗

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