5月9日午前1時

住民票の写しが必要になって、久しぶりに区役所に行った。正確には区役所の出張所か。どうも役所というのは苦手だ。正確には出張所だけど、出張所も苦手だ。北島三郎が嫌いなら山本譲二も多分嫌いだろう。例えがあってるかはわかんないけども。

とにかく、役所には人を楽しませようという気概が根本的に欠落してる。なんかこう、期待を上回ってやろうとか、予想を裏切ってやろうとか、物の見方をひっくり返してやろうとか、とにかく「逸脱」が端から固く封じ込められてる感じだ。ちなみに今、「かんじだ」を変換したら「カンジダ」になってびっくりしたが、そういうことを役所では話しちゃいけない気がする。そしてそれらはすべて当たり前である。そういう場所だ。そうでなきゃ困る。

ただ逆に考えれば、もしかしたら一番過激な逸脱はこういう場所でこそ起こるのかもしれないとも思う。固く閉じ込められた逸脱が箱ごと破裂した時、体を構成する分子が宇宙が100兆回誕生して消滅する間に1回くらいの確率で足元の床や地面の分子の間をすり抜けまくって、税務課の課長が突然地球のコアまで落っこちていく、みたいな。

そんなことを考えてみたくなる。住民票の写しは無事に手に入った。出張所から外に出て、いつも歩いてる道を家の方に向かって歩き出したところで、前を行く男性にふと目が行った。たぶんだけど、ラッパーのダースレイダーだった。わざわざ追い抜いて振り向いて顔を確認するのも失礼だし、すぐに店に入って行ってしまったが、後ろからでもちらっと横を向いた時に眼帯をしてるのは見えた。綾波レイのとはまったく毛色の違う、あの眼帯。あれを付けてあの髪型で、となると、他にはそうそういないんじゃないかと思う。

住民票の写しが必要になったのは免許証の住所変更をずっと怠ってきた(そしてそれはやっぱり役所的なところに行くのが苦手だからでもある)せいで、さらにたまたま今日は出張所の営業時間が長かったことで「まだ間に合う!」と勢いでやって来たっていう、行き当たりばったりもいいとこだが、最終的に行き着くのがダースレイダーとは。

上手く言えないが、こういう逸脱は好きだ。これで自分がダースレイダーの大ファンで、サインもらって写真も撮ってもらいましたってんじゃあ、ちょっと違う。「あ…」って思ってそのまま過ぎ去る。別段良くも悪くもない。でもこんな事があるとは、少なくとも今日の朝には1ミリも思ってなかった。だから何だってこともないし、税務課の課長がマントルに突っ込んでいくのに比べれば屁みたいな確率の偶然だが、こういうことのために生きてるって感じもしなくもない、と言っても過言でないかもしれない、と誰かが言ってたのを聞いた覚えも無きにしもあらずだ。たまには役所にも行ってみるもんだな。

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