【一つ目の扉は銀河に溶ける】 《極私的短編小説集》
逃げているわけではない。ただそこにいる。暗闇の中、街の中、路地を歩いている。何処に行こうとしているのか定かではない。自分自身の意志は見えない。意志は既にずらされている。緩やかな石畳の下り坂をとぼとぼと歩く。モッズコートのポケットに両手を突っ込み、背を丸めて歩く。しみったれた顔で歩いているのだろう、ずっとそうだった。いままで。
重い灯りが見える。その灯りの下には紫紺の外套を着たスパイが待ち伏せしていて私を襲おうとしている。わかってはいるが、逃げるつもりはなく、話し合いでな