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極私的小説【扉(仮)】

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面白いと思っていただけるか、あんまり自信がありません。一読すれば分かる通り、これは私の言語阿頼耶識の報告書、能動的創造法によるナラティブのようなもの、ですね。
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【一つ目の扉は銀河に溶ける】 《極私的短編小説集》

 逃げているわけではない。ただそこにいる。暗闇の中、街の中、路地を歩いている。何処に行こうとしているのか定かではない。自分自身の意志は見えない。意志は既にずらされている。緩やかな石畳の下り坂をとぼとぼと歩く。モッズコートのポケットに両手を突っ込み、背を丸めて歩く。しみったれた顔で歩いているのだろう、ずっとそうだった。いままで。  重い灯りが見える。その灯りの下には紫紺の外套を着たスパイが待ち伏せしていて私を襲おうとしている。わかってはいるが、逃げるつもりはなく、話し合いでな

【二つ目の扉で誘惑と遮断が相まみえる】 《極私的短編小説集》

 冷たいところから、温かいところへ、扉は世界を一変させる。温かいといってもどちらかと言うと湿度が高く、咽せ返るような温かさだ。無論そこは居酒屋ではない。コンクリート打ちっぱなしのビルの中、ここは勤務先の会社か。事務の女性が戯れている。 「もう、暑くって暑くってたまらないわね。見栄えなんて気にしてられないわ」といって制服を脱ぎ、タンクトップ姿で佇む。誘惑している訳では無いが、そう感じてしまうのは、こちらにその気があるのだろう。 「いつもいつも頼りになるとは限らないわ。どのよ

【三つ目の扉で書物の迷宮に墜ちていく】 《極私的短編小説集》

 扉を開けると、そこは倉庫、図書館、いや書店だ。古書も扱う大きな書店が倉庫を改良し営業しているらしい。本棚が壁一面に置かれ、中央には低い棚に様々な種類の本が並んでいる。真ん中にはカフェスペースもあり、寛ぎながら本を選ぶことができる。  古書は背表紙が破れ、ところどころページが抜け落ちそうである。黄ばんだページたちに古い記憶が張り付いているようだ。  「〇〇船団」「M時代ゲーム」「驪姫驪姫人」過去慣れ親しみ憧れた小説、「三十億光年の孤独」「ペプシコーラ・レッスン」「銀河鉄道9

【四つ目の扉で死んだ父に遭遇する】 《極私的短編小説集》

 扉を開け、新たな場所へ侵入する。やはり場面は建物の中だ。窓の外には見覚えのある町並みがあり、商店街の店舗(雑貨屋か、喫茶店)のよう。建物の中には亡くなった小学校の頃の友人の香りとともに、死別した父親がいる。

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【五つ目の扉で死んだ伯父に会う】 《極私的短編小説集》

 扉を分け入ると、そこは病室だった。  伯父が寝ている。  いつも寡黙で、話し出すと戦争についての恨みつらみしか話さない。   そうだ、この伯父も先日亡くなったのだった。  伯父は不満そうな顔で暗い窓の外を睨んでいる。

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【六つ目の扉で死んだ叔母に会う】 《極私的短編小説集》

 扉を開けると、そこは裏庭だった。  そうだ、ここは叔母の家で、日曜日に遊びに来ていた母と私が落ち葉を焼こうとして燃え広がり、危うく大木に火が燃え移り、火事になるところであった。記念すべき場所。踵を変え、家の中に入ると、叔母がソファに座って、もうひとりの叔母に向かって話をしている。

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【七つ目の扉で死んだ祖母を感じる】 《極私的短編小説集》

 扉を開けると、和室の部屋に亡くなって久しい父方の祖母がいる。ただ存在は見えない。存在感のみがある。もう喋らなくなった、記憶の薄れていく祖母をイメージしながら、存在感を味わう。祖母の雰囲気、移り香、温度、そのようなものがあり、そこからそれが祖母であるとわかる、といった感じだ。  親父や兄貴が言うところでは、祖母は我儘な性格であったらしい。未亡人になってからは、子どもたちの家々を思いのまま渡り泊まり歩き、言いたい放題を言い、食べ散らかしていたそうだ。皮相な欲求をやりたいように

【八つ目の扉で古い友人に会う】 《極私的短編小説集》

 扉を開けると、そこは高校の理科実験室であった。Hがギターを引きながら腕立て伏せをしている。Iが懸垂をしながらぶつぶつ呟いている。

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【九つ目の扉で、彼女に会う】 《極私的短編小説集》

 中学校の教室に来る。前から二列めの席に私は座っている。隣は彼女だ。まだ会話をしたことがない。ショートカットの綺麗な髪にクリクリとして澄んだ瞳は、いつもいたずらっぽく光っている。女友達と笑いながら話す表情は天使だ、などといつも考えていた。

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【十個目の扉で細切れになった感情に会う】 《極私的短編小説集》

 扉を開くと、ちぎれちぎれのイメージがところどころに浮かんでいる。それは記憶でもあり、像でもある。

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【十一個目の扉で「わし」に再会する】 《極私的短編小説集》

 焼けてしまう飼い猫と娘が待つ扉  崩壊するビルディングが見える扉  つぶやきがとめどなく降り注ぐ液晶画面が垣間見える扉  真っ暗な、もしくは真っ白な扉  扉、扉、扉、どの扉を選んでもそれは自分の物語である。そこには間違いなく、自分の意志があるということを、ここでは再認識する。  「どれでもいいんじゃない」  「どれでもいい。けれどどれが一番いいかは見極めたい」  「そんなもの、自分ではできない。その判断には何の根拠も、存在意義もない」  「僕にな、教えてえな。な

【十二個目の扉で物語は続く】 《極私的短編小説集》

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