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連載小説【揺動と希望】

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北朝鮮からミサイルが飛んできて、南海トラフ大震災が起こった日本がどう右往左往するか、そしてそのなかから新たな世界構築へ向かう思想が生まれるまでの物語。崩れゆく世界で根拠なき希望を… もっと読む
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連載小説【揺動と希望】 1−4

【1-4】  私だけの世界はここにある。暮らし、楽しみ、哀しみ、退屈、静けさ、法螺、絹の肌触り、お日さま、水道の蛇口、深爪、苦悩の吐息、みんな私のもの。そう、赤ちゃんも三毛猫も仏頂面の彼も。  私は難民キャンプで生まれた。イランの西部の街、ホラムシャハルは爆撃の焼け野原だった。私は長いあいだ一人ぼっちだった。ジャスミンが来てくれなかったら私はあのままあそこでのたれ死んでいただろう。テヘランに移ったときはこれでお腹いっぱい食べれるのだという喜びしかなかった。  孤児院での

連載小説【揺動と希望】 1−3

【1-3】   ミサキは夢を見ている。  スマホを見ると〇〇さんからLINE。  「もへとしねへらむとなんて」  「はるこなすめんとをしんども」  「たぶおむしからべできのるです」 などとかかれており、ああ、もう限界超えたんだ、と愕然とする。  へとへとなんだ、と思う。                 *  宗教団体の集会にいる。集合者の最前列にいる。教祖と言うよりは司祭、であろう黒人の男性がやってくる。彼の服はクリムト『接吻』の男が着ているような煌びやかな

連載小説【揺動と希望】 1−2

【1-2】 「そもそも戦争はどうして起こるか、皆さんはどう思いますか。戦争にはそれぞれ個別の特殊事情があります。これらひとつひとつを一括にし、一般化することは困難だと言えるでしょう。しかし、個々の戦争に特有の事情があるからといって、それらが外部環境から切り離されているわけではないのです。地政学的、もしくはグローバルな経済学的な観点からの関係性を検討する必要があるのです…」  講堂の教壇に立ち、三隅正和は十数人の学生に向かって話し続ける。  「例えばウォーラーステインの世

連載小説【揺動と希望】 1−1

【1-1】  爆発。  極限にまで我慢したエネルギーがもうどうしようもなくなって一気に吹き出す。充満することに我慢しきれず、現実界を構成する誰かがその一歩を踏み出す。そこには一種のあきらめがあり、その後に開ける青空を見ることを渇望する意思がある。爆発という幸運がすべてに重なり合う瞬間。すべて望んだことが形になる。そう、世界は昔、そうして出来上がったのだ。  痛い、けど心地良いとミサキは思った。粉塵とコンクリートの破片が身体を叩く。防護服は引きちぎられ、ヘルメットからは休