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読書ノート 「アフガニスタン 戦禍からの再生・希望への架け橋」 レシャード・カレッド

 医療の「醫(医の旧字体)」には、祈る気持ちで待っている患者のところに、技術をもって奉仕するという意味が込められている。「医」が技術、「酉」は祀る・祈る、「殳」は奉仕、という意味。 

 著者のレシャード・カレッドさんは、1950年アフガニスタンに生まれた。  1969年に留学生として来日し、千葉大から京大医学部に編入、医師免許を取得し京大、関西電力病院、天理よろず病院、島田病院などに勤務後、日本に帰化。イエメン結核対策プロジェクトリーダー、松江赤十字病院などを経て、静岡県島田市にレシャード医院を開設。地域医療に貢献している。2002年アフガニスタン復興支援のためのNPO法人「カレーズの会」設立し、JICA理事長賞など各種の褒章も受賞している。

 この著作はレシャードさんの生い立ちと、アフガニスタンの歴史について記されている。そして、アフガニスタンで活躍し、2019年に凶弾に斃れた「ペシャワール会」中村哲さんとの交流についても記されている。

 私には、アフガニスタンの歴史と、中村哲さんとのくだりが印象的であった。古代、交通・文化の要所であり、「アジア大陸の文化の十字路」「シルクロードの交差点」と称され、豊かな文化が栄えたアフガニスタンから、地政学的な危機を抱えた近現代の不幸な歴史を見ると、未来に向かって国を再生していこうという気持ちが、勇気がおのずと湧く。卑近な連想として「風の谷のナウシカ」の「風の谷」「トルメキア」を思わせる。

 アフガニスタンの正式国名は「アフガニスタン・イスラム共和国」であり、周囲の六つの国とともにイスラム教国である。植民地時代はイギリスに翻弄され、第二次世界大戦後はアメリカ・ソ連の冷戦に巻き込まれ、パキスタンも巻き込み戦場と化す。その戦乱のなか、ムジャヒディンと呼ばれるイスラム戦士の中からタリバンが生まれ、、そしてアラブのオサマ・ビン・ラディンの接近、タリバンによるバーミヤン遺跡の破壊が起こり、そして地政学的危機と宗教紛争はアルカイダのアメリカ本土への攻撃に繋がる。アルカイダの9.11の実行犯にアフガニスタン人は一人もいないのだが、この同時多発テロの報復として、アフガニスタン全土はアメリカの空爆に遭うのである。反タリバン組織から出た北部同盟、 カルザイ暫定政権、ポスト・カルザイ政権の混迷、アメリカ駐留軍の完全撤退によるタリバン勢力の復活、2022年の大地震と、アフガニスタンは世界政治経済に翻弄され、災難は続く。


レシャードさんの中村哲さんへの言及

「中村先生がいつも言っていたのは、『人は闘いとか武器で幸せになれるわけがない。いくら武器を使って闘いをしても、皆の心の中のどこかに傷として残るし、逆にそれが憎しみとして残る。平和にはなれない。やっぱり人間にとって一番いいのは、小さな親切と、あとは食べていけるだけの術であって、それによって子どもたちは健康になれる』ということです。まさにそのとおりだと思います」

 きっとこれに尽きる。新奇性はいらない、普通のことが一番重要で難しい。

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