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読書ノート 「息吹」 テッド・チャン 大森望訳

テッド・チャン待望の第二弾短編集。
 「息吹」は、やはりというか、その想像力の行き着く先が遠大。すごい、という他ない。

 「ソフトウエア・オブジェクトのライフサイクル」も、これ、現実に起こりそう、という内容。マーケティングや人工知能・ロボティクスの知見をもってして、「あり得る未来」を描き出す。

 「偽りのない事実、偽りのない気持ち」のコンセプト、「すべての過去が電子的に完璧に記憶されたとしたら、人から個人の物語が消え去ってしまうのではないか」が素晴らしい。この気付きにつきますなあ。

 「不安は自由のめまい」は、量子力学をSF的アイディアに消化した至極の出来。量子力学を扱うSFはたくさんあるが、本編に出てくるガジェット「プリズム」は、平行世界とのコミュニケーションが可能となり、その世界での「別の自分」の行動経緯を知ることができる。チャンの思弁物語によって、読者は、人はどのように感じ、考えるのかといった、本質的なテーマを目の当たりにすることになる。

 巻末の作者による「作品ノート」が勉強になります。「息吹」は、P・Kディックと、ロジャー・ペンローズ『皇帝の新しい心』からの発想源があったことを告白している。高い知識とそれをどう物語化するかについて、世界のSF作家のなかで、今一番洗練されているのではないか。これぐらい考えないと、ハイクオリティなSFは書けないということがわかりました。



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