見出し画像

読書ノート 「驚異の量子コンピュータ」 藤井圭祐

 岩波科学ライブラリー289「驚異の量子コンピュータ」 藤井圭祐さんを読む。 

 今書いている小説のSF的ネタ部分として、量子コンピュータとはどのようなものかを勉強しようと思い、購入。量子の世界では、観察しようとするとその観察対象が変化したり、逃げていってしまったりする現象があるのだとか。また現在のコンピュータ原理の1と0の二進法ではなく、1でもあり0でもあるという現象を活用して作られるのが、どうやら量子コンピュータだということを前知識とし、一体どういうこと?という疑問とともに読み進んでいく。

・量子に関する3つの性質
 ①観測するまでは、電子の居場所が確定せず、あいまいにいろいろな可能性を重ね合わさっていること(重ね合わせの原則)
 ②その可能性は波としてふるまうため、干渉して強め合ったり弱め合ったりする(波動性)
 ③スクリーン上で電子の位置を観測すると可能性は収縮し一粒の量子になる(波束の収縮)
これらの性質が、量子コンピュータの高速性の根源にもなっている。

・重ね合わせ状態とは、原理的に宇宙の誰にも(たとえ神であっても)0なのか1なのかまったくわからない、という本質的に二つの状態が不確定になっている状況である。可能性の波の広がり、と表現される。

・量子のもつれ(エンタングルメント)︙局所実在論の破れ。「神はサイコロを振らないのではなく、サイコロを振る」量子テレポーテーションを可能にする。

・「寸分狂いなく動作する量子コンピュータがあれば、実際にミクロな世界とマクロな世界を量子コンピュータ上で緻密に再現することで、(量子力学と熱力学の整合性などの)仮設も検証が可能になる。︙量子コンピュータはプログラム可能な宇宙の箱庭なのだ」

と、書き綴ってしばらくして、量子テレポーテーションが実現したとのニュースが伝わった。

 「量子テレポーテーション、米大学が長距離で初成功(2021・1・4、日経新聞記事)」

 「盗聴の恐れが全くない安全なインターネットの実用化が見えてきた。米カリフォルニア工科大学などの研究チームが「量子テレポーテーション」という次世代通信につながる技術で長距離の転送実験に成功した。高速で安全な通信網は国の安全保障や産業育成の基盤となり、世界各国の開発競争が激しくなっている。
 遠くにいる相手との情報のやり取りは、いつの時代でも重要な関心事だ。江戸時代には飛脚が手紙を運び、現在はメールやSNS(交流サイト)などを使ってメッセージや音声、動画などの情報を送受信している。ただ情報のやり取りは流出や改ざんのリスクがつきまとう。通信ネットワークでもサイバー攻撃に遭う危険がある。これを解決する技術として期待されているのが量子テレポーテーションだ。SFのように物質が瞬間移動するのではなく、情報だけが移動する。紙自体を送るわけではなく、紙に書かれた情報を送るファクスのイメージに近い。量子で情報をやり取りするには、微弱な光の粒である「光子」を使う。2つの光子をペアにしてお互いに影響を与えるよう関係を持たせて離れた場所に置く。光ファイバーでつないで片方に影響を与えると、もう片方に情報が伝わる。あたかも情報が瞬時に移動したようにみえる。ファクスやインターネットのように情報を電話回線や通信ネットワーク上で運ぶわけではないので情報が盗まれたり改ざんされたりする心配がない。

 量子を使う通信は「量子暗号通信」や「量子インターネット」と呼ばれる。これを実現するためには2つの光子が互いに影響を及ぼし合う「量子もつれ」という状態にする必要がある。「量子もつれ」とは難しい言葉だが、人間関係に例えれば離れた場所にいる男女が心を通わせ気持ちを高めているような感じ。両者が離ればなれになっても見えない糸で結ばれているように影響し合う。量子テレポーテーションの実験は1998年に米カリフォルニア工科大に留学していた東京大学教授の古沢明さんが世界で初めて成功した。その後、様々な成果が出ていた。今回、米カリフォルニア工科大はフェルミ国立加速器研究所、AT&Tなどと協力して、44㌔㍍離れた場所へ光子によって情報を転送する実験に成功した。光子を正確にとらえる検出器などを工夫して実現にこぎつけた。
 横浜国立大学教授の小坂英男さんは「量子もつれを使った上で、数十㌔㍍もの長距離の伝送に成功した」ことに注目する。現在、数百㌔㍍を超える量子通信は完全な安全性を実現できるわけではない。数十㌔㍍間隔にある中継地点で量子の状態を解くため、そこで情報が漏れる可能性がある。量子暗号通信装置の提供を20年度中に始める東芝やすでに提供しているスイスのIDQ、北京―上海間で2000㌔㍍の通信を手掛ける中国科学院も量子もつれの状態を事業には使っていない。米大の実験では量子もつれを実現し長距離伝送に成功した。量子もつれを利用すれば、光子の量子状態を別の光子に引き継ぐ中継器の役割を担え、情報を送れる距離が飛躍的に伸びる。
 東大准教授の武田俊太郎さんは「中継の形で(通信距離を)1000㌔㍍以上に延ばせる可能性がある」と強調する。現在の通信ネットワークでも光ファイバーの間に数十㌔ごとに中継器を置いて、光を増幅させている。それと同じように、光子の量子状態を保つ中継器を張り巡らせることができれば、機密情報を守る量子インターネットの実現が現実味を帯びてくる。米大の研究チームは、米エネルギー省が20年7月に公表した量子インターネットの推進計画にも参加している。同計画は、全米にある同省傘下の17の研究所を量子インターネットで結ぶ構想だ。フェルミ国立加速器研の担当者は「今回の成果は、エネルギー省の計画を実現するための重要な一歩だ」と指摘する。

 インターネットの起源とされる米国防総省が始めた「アーパネット」と似た計画で、世界一安全なネット環境を米国は狙っている。安全な通信網の実現は次世代の超高速計算機として期待される量子コンピューターの実用化も後押しする。計算結果を量子インターネットに接続すれば、セキュリティーを高めたまま結果を遠くまで運べる。複数カ所に設置した量子コンピューターをつないで計算結果を持ち寄り、より高性能な量子コンピューターに見立てる用途も想定される。これまで量子を使う通信では米国勢は中国と比べて目立った成果を出せていなかっただけに、今回の成果は追撃の足がかりになる可能性がある。量子技術は政府の機密情報の保持などとも関係し、米中の覇権争いは一段と激しさを増しそうだ」(上述日経記事)とのこと。


 いったいこれからどうなるのだろう。私が死ぬまでに、私が想像すらしていなかったことがどんどん現実化していくのだろうか。これではSFなんて書けない。
 まあ世界は驚異的だ。

よろしければサポートお願いいたします!更に質の高い内容をアップできるよう精進いたします!