見出し画像

読書ノート 「コーポレート・トランスフォーメーション」 冨山和彦

 著者の冨山和彦はボストン・コンサルティング・グループ、産業再生機構などを経た独立系のコンサルタント。「中小企業の実態を踏まえた議論に感銘を受けた」と感想を述べている。図書館で発見、一読する。扉でオムロン元会長立石義雄へ哀悼の意を述べるなど京都経済界とも繋がりが深いことを想起させる。

 この本は2020年5月に刊行され、コロナ感染症流行の初期段階にあった。そこですでに富山はコロナからの回復に大きく手間取り、深刻な経済不振が政治の不安定、ポピュリズムの台頭、更には戦争の誘惑を予見している。歴史を見ればある程度想像がつく帰結ではあるが、はやり先見の明があるといえるだろう。

 コロナによるDX、サイバー空間でのグローバル化、リアルでのグローカルの加速で社会は一変するなか、古いモデルがますます機能しなくなる。成功の呪縛にとらわれず、新しい仕組み、思考を模索して生き延びていかなければならない、新しいアーキテクチャを創造する好機でもある、という内容。

 コーポレート・トランスフォーメーション(CX)を微分すれば個人に、積分すれば社会や国家に当てはめることができるという。個人から発することが哲学や心理学とすれば、CXから発するのは社会学、経済学、社会から発するのは政治学、に当てはまるかしらなどと想像する。

 とりあえず、趣旨、キーワードなどを切り取っていく。

 

  • かつての日本企業の強さは、同質的で連続的な組織モデルにあった。

  • グローバルな変化、デジタル革命が日本を追い込んでいった。

  • 日本的経営(終身雇用・年功制・企業別組合)はフォード財団の研究者が生み出した言葉。研究者の著作の原題が「the japanese factory」であったように、この三種の神器の有用性は、あくまで大量生産を行う「工場」での話であるということは、高度成長の成功と同時に1990年代以降の日本的経営の運命をも暗示している。

  • 三井三池争議、「総資本対総労働」しかし本質的な解決は困難であった。なぜならそれは単なる分配の問題ではなく、石炭から石油へという「エネルギー産業における破壊的なイノベーション」であったから。

  • 日本的経営の成功の本質は、その合理性にある。

  • 手段原理の集合体が目的化する。

  • 『両利きの経営』「主力事業の絶え間ない改善(知の深化)」と「新規事業に向けた実験と行動(知の探索)」を両立させること

  • 『イノベーションのジレンマ』有力大企業が「合理的」に行動した結果として破壊的イノベーションに対応できなくなる

  • スマイルカーブ。川上と川下は付加価値を生むが、その間のレイヤー(労働集約的な組み立て部門、後工程)は付加価値を生み出せない。

  • アップルはIOS上のソフトウェアサービスという優れた頭脳とiPhoneという極めて強力なハード、すなわち魅力的な肉体をセットで提供している。

  • 8つの質問

    •  心は自由であるか、逃げていないか、当事者・最高責任者の頭と心で考え、行動しているか、現実の成果に固執しているか、本質的な使命はなにか。使命に忠実か、家族・友人・社会に対して誇れるか、仲間・顧客・ステークホルダーに対してフェアか、多様性と異質性に対して寛容か

  • ワン・フォー・オール、オール・フォー・ワン(one for all,all for one)「ひとりはみんなのために、みんなはひとりのために」の最後のoneは、「ひとり」は間違った翻訳。正しくは「チームとしての勝利」

  • ROIC:資本利益率、または投資資本利益率は、株主やその他の債務者が投資した資本の額に対する企業の収益性と価値創造の可能性の尺度として、財務、評価、および会計で使用される比率 

  • 観念的、情緒的な愛社精神などというものは一時の熱情が通り過ぎてしまえば消え去る。人間というものはもっとリアルに未来へ向かっって生きていく現金なものだ。

  • 「分ける化」と「見える化」

  • 中小飲食店の急所は固定費。家賃や設備リース代。自社店舗や自宅店舗は反対にしぶとい。

  • グローバルニッチになって世界から発注の受けるように。

  • 幹部を外部人材から招聘する

  • 伴走型支援サービス、ローカルCX 、地方国立大の新たな可能性

  • グローバル企業の衰退により、富のトリクルダウンは起きなくなってきている。

  • 衣食足りて礼節を知る。貧すれば鈍すが人間の本質。

  • できること(can)、やりたいこと(will)、やるべきこと(shall)が重なっているか

最後は尻すぼみ感がありましたが、勉強になりました。


よろしければサポートお願いいたします!更に質の高い内容をアップできるよう精進いたします!