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春ギター (ショートショート)


 俺は頃合いを見計らって雪解けの山道を歩く。見晴らしの良い場所に出て、小さな石の上に腰掛ける。
 原生林が見渡す限り、淡いピンクに色づいている。昔の人間はこれを山笑うって。あちこちで一切に芽吹きが開始されている。

 足元にも、ふきのとうの芽が出ていて、そっと採る。天ぷらにしよう。だが生きているのは植物だけだ。小鳥の姿すら見かけないではないか。まったく、この山にいる動物たちはどいつもこいつもねぼすけだ。俺がさっさと起こしてやる。俺はおもむろにギターケースを開け、調音もそこそこに弾き始める。

はーるが、きーたあ、
はーるが、きーたあ、
どーこーにきたー


じいちゃん、起きて!
春が来たみたいだで?

あ、聞こえる聞こえる。あのオンチめが。

あれが春ギターでしょ?

毎年あの声で起こされるのは、かなわんの〜

冬眠していたクマもタヌキも皆起きて、声の元に歌をやめろと突進する。

春ギターを弾く俺は皆の姿を見ると笑いながら宙に浮かんで花びらを散らす。


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