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#0225【風は蕭々として(荊軻、史記の世界)】

1日1分歴史小話メールマガジン発行人の李です。

 今週は中国史記の世界から刺客列伝に登場する五人を紹介しています。

前回の最後に取り上げた聶政の事件から220余年が経ちました。時代は国力を増大化させた秦の下、急速に中華統一への流れが加速していきます。

(前回:No.224【ただ恩義に報いるのみ(曹沫、専諸、聶政)】)

燕(現北京近郊)の国の太子(王様の後継ぎ)は、秦王政と同年代であり幼馴染でもありました。中華統一へと邁進している秦の勢いに恐れをなした燕は、自国の太子を人質に出しました。

太子は既に身分が異なる状態になったとはいえ、秦に赴けば、秦王政に幼馴染として遇してもらえると思っていましたが、人間不信の塊りのような政は、太子を冷たくあしらいました。処遇にいらだちを覚えた太子は秦を脱出して燕に戻り、秦打倒について田光という人物に相談すると彼は荊軻を推薦しました。

荊軻は読書と剣を好み、元々は小国の君主に仕えようとしましたが、用いられず燕に流れてきたのです。遊侠の徒と交わり、その日暮らしでしたが、田光にその才能を認められていました。

太子は田光に荊軻との面談を依頼したのです。田光の去り際に太子は「国の大事であるため、決して他言なさらぬように」と伝えると田光は笑みをこぼして頷きました。

田光が荊軻と会い、荊軻が太子との面談を了承すると田光は「太子から他言なさらぬようにと言われたことは、太子が私を疑うものである。事を計画して人に疑わせるのは義侠とは言えない」と言い残して自殺します。他言が決して起きないようにと。

荊軻は太子の所を訪れると事の経緯を説明し協力を約束します。太子は荊軻を尊んで遇して、豪華な食事と車馬美女を進めて、荊軻の望みどおりの生活をさせました。

秦の軍隊が燕の国境である易水までやってくると太子は荊軻をせっつきます。荊軻は「この時期を待っていたのです。私を降伏の使者として秦に遣わせてください。領土をしるした地図を巻物にしてその中に刃に毒をつけた短剣を忍ばせましょう。」

ただ、準備が万端となっても荊軻は出発をしません。自分の片腕となる人物の来訪をまっていたのです。しかし、その人物が現れることを太子が待てずに別の人物を補佐にして出発するように急かされました。

荊軻は覚悟を決めて出発して、秦の首都で秦王政に謁見します。

荊軻の補佐の人間は威容に震え恐れてしまい、秦の群臣たちはそれを訝しげに思いましたが、荊軻が「この者は小国の生まれで、このような立派な宮殿や天子さまにお会いしたことがないため、震えているのです。」と詫びました。

荊軻は、壇上へと昇り、秦王政に命じられて地図を開くと、忍ばせていた短剣を突き刺そうとします。秦王政は驚いて柱を立てに逃げ回ります。

秦の兵隊たちが階段下に控えていましたが、武器を帯びている彼らは秦王の命令なしには壇上に上がれなかったのです。

群臣たちが荊軻を羽交い絞めにしようとしますが、短剣に触れるとその毒が回って倒れてしまいます。

秦王政は剣を帯びていましたが、飾りも兼ねた長剣で簡単に抜けずにいたところ、侍医が薬袋を荊軻に投げつけました。

秦王政は剣を背負って抜いて、その剣で荊軻の左股を斬りつけると荊軻は座り込み、短剣を秦王政に投げつけますが王には当たらずに柱にあたりました。続いて秦王政が八回荊軻を斬りつけます。

もはや事が成就しないと悟った荊軻は柱にもたれかかり、両足を前に出して秦王を罵りました。群臣が囲んで荊軻は殺されました。

怒髪天をついた秦王政は、燕にますます大軍を送りつけて10か月で首都を陥落せしめます。

その後、5年ののちに燕王は捕らえられ、その翌BC221年に秦は天下を併合して中華統一を果たし、秦王政は始皇帝を名乗りました。

荊軻は、燕から秦に出発する前に志を述べた詩を残しています。

風は蕭々(しょうしょう)として易水(えきすい)寒し
壮士(そうし)一たび去って復(ま)た還(かえ)らず

たとえ、暗殺に成功しても失敗しても二度と生きては戻れない覚悟だったのでしょう。

刺客列伝で紹介された曹沫、専諸、予譲、聶政、荊軻。彼らの中で義挙が成功したものもいれば、失敗したものもいました。

しかし、その心境は明白で、恩義に報いようとした姿勢に変わりはありません。

以上、今週の歴史小話でした!

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