満足できない段落 【[勝手版]論文の書き方】

「パラグラフは、一つの中心文(トピック・センテンス)をサポートする文(情報)の塊です。[中略]パラグラフ内の情報はもうわかっていること(既出情報)から、読者が知らないであろう情報(新出情報)の順番に並べます。」

佐渡島紗織・吉野亜矢子 (2014)『これから研究を書くひとのためのガイドブック』(ひつじ書房),p.33

パラグラフとは、段落のことです。
今、ここで段落を打ちましたが、引用によれば、「パラグラフ」というのが中心文で、「段落のことです」がサポート文ということになります。
このサポート文。ちょっといじってみましょう。
パラグラフとは、段落のことであり、パソコン上で作る場合は、エンターキーを押すことでできる。
余計な情報を加えました。パソコン上の段落の作り方については、きっと別の段落にするべきなのでしょう。でも、同じ段落でも違和感はありません。
じゃあ、何が違うのか。比較します。

①パラグラフとは、段落のことです。

②パラグラフとは、段落のことであり、パソコン上で作る場合は、エンターキーを押すことでできる。

まず素朴に思う音は、①は文字量が多い。前者は均等になっています。②はだんだん長くなっています。
①は収まりがいい。開けたら閉める、遊んだら戻す。片付けできる人みたいです。
②は、これは片付けてませんね。出したら出したで、全部そのまま。でも、こっちの方が役立つ気がします。
つまり②の方は、遊び残しがある。②を書いている時は、思いついたのでこれも書いちゃえという感じで書きました。おもちゃ箱を漁っていたら、これもあれも出てきたので、一緒に遊んじゃおうという感じ。
それでもう、放ったらかしです。でも、それがいい。片付けてしまわないことで、どんなことをしていたかが分かります。思いつきで書く文章は、その中に行動が入ってくるのです。

では、なぜ①には行動が入っていないのでしょうか。それは、おもちゃ箱から出したら、出した分だけ戻すからです。箱から出す時点で、どれくらいの時間で片付けないといけないのか、文章で言えば、その文字量がわかって書いているのです。
収まりのいい文章は偉いです。賢く見えます。でも、個人的にはつまらないのです。

パラグラフは既出情報、新出情報の順で書くと言ってありました。賢く書く場合、新出はサポート文でしょう。

パラグラフとは、段落のことです。

この「段落のことです」。果たして新しい情報なのでしょうか。新しく出てきたという意味では、分かりますけれど、新しいと言われると、ちょっと違う気がするのです。
だって、パラグラフが、段落のことですから。反対でも、段落が、パラグラフのことです。
つまりここには、新鮮さがない。新しい感じがしないのです。だから、つまらない。
楽しいのは、思い付きで書く方です。

パラグラフとは、段落のことであり、パソコン上で作る場合は、エンターキーを押すことでできる。

「段落のことであり」と、新出情報が出て、そこからバネのように新鮮な情報が出てきます。やっぱり、こっちの方が気持ちいい。
こういう文章は、書いてると心地いいです。それは、満足じゃない。満足できないから、心地よくなろうとするのです。だから、こうして文章を書き続けているのです。

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