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創作まとめ。

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創作した小説やショートショートをまとめています。ほぼ企画参加で書いているのはご愛嬌です。
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記事一覧

【ショートショート】ふうせん

社会人になって、1年が経とうとしている。 いつの間にか夢見ていた大人になってしまったが、未だに大人だという実感がわかずに、ただただ社会という組織に足並みを揃えるのに汗水を垂らした1年だった。 思い立って立ち寄った近所の小さな遊園地でぽつり、子どもたちに風船を配るお姉さんや楽しそうに駆け回る子どもたちを眺めてふと思う。 大人って、何なんだろうな。 私もあの子達のように、何も考えずに駆け回っていたことを思い出す。 ただ、目の前のことに夢中になり、明日も遊ぼうねと別れる日

最初で最後のポートレート【ノトコレ応募】

『遺影の写真を、撮ってほしいの。』  突如入った母からの連絡に、しばらく連絡を取っていなかったバツの悪さと共に、淡々と書かれた一文に心が冷え切るような感覚がした。  母が遺影の撮影を依頼したのは、きっと私がフォトグラファーだからだろう。全国どこでも、依頼があれば駆けつけるライフスタイルから、実家に顔を出すのはおろか、連絡すらおざなりになっていた矢先のことだ。  3年前、父が亡くなった。その葬式以来、実家に足が向かなくなっていたのは事実だった。  父の容態が良くないと聞

🌙宇宙猫は輪廻の夢を見る:re

愛猫の宇宙が死んだ。 それはもう、あっけなく。 宇宙は、三毛猫の雄だった。 捨てられた先から逃げてきたのか、それとも母猫とはぐれてしまったのかわからないが、近所の公園で今にも力尽きそうになっていたところを、私が保護した猫だ。 三毛猫の雄は珍しい。しかも、野生なのか捨てられたのかわからないが、このような形で出会うなんて。 我が家では神様のように宇宙をもてはやし、大切に育てた。 すくすくと育った宇宙は、保護した当初とは比べものにならないほど立派に育ち、凛々しい男の子となった

鶴亀杯。夏の俳句。【企画参加】

さて、いよいよ酷暑で夏バテが加速しているわたしですが、みなさまはいかがおすごしでしょうか? わたしはとあることのために駆けずり回っているので、家に居る時はいいのですが、一歩外に出るともうだめですね…。 電力不足が叫ばれていますが、無理のないよう暑さ対策をおこなってくださいね! 今回は、鶴亀杯に投句したいと思います。 夏っぽい俳句?を詠んでみました。 わたしは汗かきなので、暑くなる時期はほんとうに辛くて…少し歩いただけでも滝汗、拭っても拭っても汗がたれてきます。 そ

嘘つき鏡【#夏ピリカグランプリ】

蝉しぐれが焼けた肌にジリジリと突き刺さるような夏の日。 お盆を控えた私達はお墓参りのついでに、家主を失った田舎の祖母の家まで来ていた。 半年前、祖母が亡くなった。 祖母の葬儀の後、祖母が一人暮らしていた家を誰が処分するのかということを、親族間で揉めに揉め、半年間放置されていたのだが、とうとううちが引き取ることになり、現在に至る。 家主がいなくなった家は老朽化が早まると聞いていたが、かなりの荒れ果てようで、滴る汗を拭いながら、祖母の遺品や形見分けだけをおこなう。 特殊清

茜色、お願い。【#曲から一句】

今回はこちらの企画に参加しています。 一句と言いましたが…575ガン無視で言葉を並べました。 むしろ詩のようなものです。 夏といえば、カゲロウデイズ。 もう遠い過去の話ではありますが、思い出深い作品の一つです。 わたしは大人になってしまいましたが。 あの頃を忘れぬよう、忘れられない恋の歌を書きました。 【原曲はこちら↓】 作者さまや、その他プロジェクトに携わる全ての方々に敬愛を込めて。 また、あの夏がやってくる。 【メカクシ団公式HP】 ※アイキャッチ画像はお

あいうえお作文。短歌未満。

全然夏っぽくも短歌でもないけど。自己満であげときます。

宇宙猫は輪廻の夢を見る🪐🐈‍⬛

宇宙猫。それは、銀河の背景をバックにして、ぽかん…( ゚д゚)とした顔の猫が載せられた写真である。 そのフリー素材で作成された画像がまたたく間に広がり、今もなおTwitterなどでスタンプ代わりに利用されている。 そんな中、宇宙の画像と撮影した猫の画像を合わせて、せっせと宇宙猫にした写真をインスタグラムに投稿しているアカウントがあった。 密かに、人気を博していたのも無理もないだろう。 私と友人のミオは、そのアカウントの話題でもちきりだった。 「ねお、昨日の宇宙猫の写真

遠い、記憶の先で。

ふわり、カーテンが揺れる。生ぬるい空気と痒くなる目元に、春の訪れを感じられた。 午前の仕事を終えた私は、日差しが差し込むソファの上でゆっくり、入れたばかりのハーブティを傾ける。暖かな液体が喉を伝う感覚を、丁寧に味わった。 ふと、今住んでいるところの近くに、昔少しだけ住んでいたことを思い出す。 小さな庭がついた賃貸住宅。細かい砂利が敷き詰められた遊び場で、ざくざくと地面を掘り起こしていたら、ふと柵の向こうにも自分と同じぐらいの歳の男の子が遊んでいることに気がついた。 じー

湯気の先で|#10

神社での不思議な邂逅を終え、家路につく。 いつの間にか、すっかり夕方になってしまった。 「帰ったらゲームするんだ!!」と意気込む弟。早く帰って、母の手伝いをしなくては。 気温は下がり、頬をひんやりとした風が撫でていった。 薄暗くなり始める街に、商店街の明かりが眩しく映る。 急ぎ足ながらも、その商店街の角にあるたいやき屋さんを目指した。 いかにも老舗のたいやき屋さんという風貌のその店は、母に連れられてよく来た場所だ。 むっと熱気を感じる鉄板に挟まれたたいやきが、パカッと

たぶん、しっぽが見えた気がする|#9

美術館での思い出に浸りながら家路を歩いていると、なんだか聞き覚えのある声が聞こえてきた。 「だーかーら!!!しっぽが見えたんだってーーーーー!!!!」」 紛れもなく、わが弟の声が聞こえた。 なにを騒いでいるのだろうか? 声はどうやら、少し先の神社から聞こえてくるようだった。 このまま通り過ぎるわけにもいかない。もうすぐ弟の門限だし、連れて帰らなきゃ。 神社の鳥居に向き直り、階段の向こうにある境内を目指す。 地味に段数が多い階段は、運動不足の身体には堪え、息は軽く上がっ

心がにじむ|#8

夢を、見ていた。 それは、ひだまりのように優しく、暖かい夢だった。 ふと、時計に目をやると、時計の針は13時を示している。 少しまどろんでいただけのようだ。 慌てて起き上がり、支度をする。 今日は、バスで出会った少女と、美術館の展示を見に行く約束をしていた。 待ち合わせ場所の美術館の前に到着すると、わたしの姿に気がついた彼女が手を振った。 それに応え、わたしも手を振り返す。 「お待たせしてごめんなさい」と言うと、「いま来たところです!」とにこやかに答えてくれる。

バレンタインはすぐそこに|#7

今日は土曜日。弟は朝早くから友達の家に行き、父は休日返上で仕事に出かけていった。 そして、我が家には母の友人が来る予定になっている。 母の友人は、以前母の職場で同期だった人だ。 偶然にも同じ学区に住んでおり、息子さんと弟が友達同士だったから、仲良くなるのに時間はかからなかった。 そして、今日わたしたちがやることは、ずばりバレンタインの準備。 女子3人で、執念のシュークリームリベンジ大作戦をやろうと集まったのだ。 母の友人はどうしてもシュークリームを成功させたいということ

缶詰の中身は|#6

図書館からバスに乗り、最寄りのバス停で降りる。 バス停からの道は店などが特になく、ぽつり、ぽつりと点在する街灯が続き、田舎だなぁと思わせるような景色が続いていた。 本が読みたい。高鳴る気持ちに自然と足も早くなる。 街灯がまばらな道は薄暗くなりはじめたのもあり、あまり長居はしたくない雰囲気。余計に足は家へと急いだ。 ふと、正面から誰かがこちらに歩いてくるのが見える。長い髪を揺らしながら歩く姿からして、きっと女性だろう。 その手には何かが握られており、どうやら話しかけながら