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装画『高卒程度公務員 直前必勝ゼミ』-メイキング

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『高卒程度公務員 直前必勝ゼミ 3年度 別冊受験ジャーナル』
刊:実務教育出版
発売日:2021/06/10
デザイン: 山崎幹雄デザイン室

装画を担当いたしました。

今回のお仕事は
2019年から約1年かけて5冊ぶんの装画を担当した『受験ジャーナル 特別企画』と2020年の『高卒程度公務員 直前必勝ゼミ』
から継続してご依頼いただけました。



1:ご依頼

・イメージテーマ:「可能性」や「希望」
 閉塞感を超えていく、夢で一息つく、想像してカタルシスを得る、目の前に向き合う…など
・読者は主に高校3年生~20代前半の方(男女比はほぼ1:1)
・上部8cm程度、下部3分の1程度のスペースに文字情報が入る
・タッチの指定は特になし(宮崎さんのお好きなタッチで)

・B5の装画を1点
・納期:ラフ提出まで約3週間、ラフから納品まで約1週間

基本的なフォーマットは前回と同じ。


2:ラフスケッチ(約10日後)

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・アルコーブっぽい出窓に座って、外へ手を振る青年と犬
・ふせんを貼った本や単語帳、マグカップなどを配置して、リラックスしながら勉強している風に
・青く薄暗い室内、描きこんでいないけれど一面本棚になる予定
・窓の向こうにはビル群と空中廊下
・空中廊下には老若男女いろんな人々が行き交う
・影も濃いけど光を感じる画面にするつもり

初めてお仕事をするクライアントさんにはもう少し丁寧なラフをお送りしますが、『受験ジャーナル』は過去に6冊手がけているので「最低限の情報が伝わればいい」というラフ加減です。

雰囲気としてはこちら↑や、2020年の『高卒程度公務員 直前必勝ゼミ』のように輪郭線をきっちりと描ききらないタッチであることをお伝えします。
この時点で「人物の顔も見えないしミステリアスすぎるかな、もっと明るくナチュラルなカラーリングの方がいいかな」とも思いましたが「自由に」と言っていただけたのでまずは描きたいものを描いて提出しました。
自分なりにちょっとだけ攻めた表現にしたつもり。
ダメならリテイクがくるはず!

3:フィードバック(約1週間後)

全体的な構成や配色は、イラストレーターさんの感覚でまとめて頂くのがしっくりくるかとは思います。
イラストは昨年の『朝の光を浴びた情景』から視点が置き換わったような
イメージですね。ただ寒色系の面積が広いため、やや暗めの印象をもたれる懸念はありそうです。全体的な印象を維持しつつ、もう少し「未来、希望、可能性」というテーマへの寄り添いが加わるとさらに良くなるのではと。

デザイナーさんのご意見。
配色をまるっと塗り直すことになるかも、とも考えていたのですが最初の案を尊重してくださいました。ありがたい!
以下は具体的なご要望。細かいところまでご配慮くださっています。

A◆
面積の大きい「濃い青の本棚」に描き加えられるだろう本の背や、現状ラフで描かれている時計・額・小物・モビールなど飾り要素の配色を全体の調和がとれる範囲で、少しでも明るくにぎやかな印象に
(もちろん、本を手にした主役と手前の犬より主張が抑えめであることは維持しつつ)
B◆
窓の向こう側であるビル街をもう少しだけ暖かい雰囲気に
C◆
主人公の顔が見えない点が気になりますが「ミステリアス」さを狙っているとのことですので、窓の向こう側で手を振る知人との対応がさらに感じられるようにしたい気がしました。
となると、ビル街における「空中廊下」側をもう少しだけ近くに寄せれば歩いている人の表情や「多様性」も訴求できるかもしれません。
D◆
文字要素はレイアウトを進めないと細かな点を述べられませんが、現在の窓部分の明るい面積はできれば減らしたく無い感じです。
人物の座っているあたりから下に文字要素をまとめて配置する方法も考えられます。その際は、ほんの少し主人公たちの位置を上げる感じ。
窓の上辺は現状キープとするならば、窓面積が少し狭くなるので、そのぶん窓の左右幅を広げる方法もありそうです。その場合に本棚の面積は変えず 、窓辺部分の奥行きを狭くする感じとなりそうですが、ただそうなると人が座れる面積として大丈夫なのか微妙です…

なお、上記、AとBは本番対応で可能でしょうけれど、
Cは修正ラフの確認が必要になります。
Dは文字情報の当てはめ進行後の確認事項となります。

編集さんともご相談し、Cの「空中廊下を近づける(拡大する)」のはいい塩梅を探るのがスケジュール的に難しそうだったので、AとBだけを反映させる方向にさせていただきました。
(バランスを取るのが難しそうな構図にした私のせいなのですが、空中廊下がこれ以上近づく(大きくなる)と手前の人物と被ってゴチャつきそう・ビル街がよくわからなくなりそうで…)

余談ですが「犬だけでもカメラ目線にしたほうがいいですかね?」とも伺ってみると「たぶん犬も窓の向こうの彼女が好きなのでこのままで」というお返事をいただいてなんだかほっこりしました。

またこの時点でのレイアウトラフもいただきました。

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タイトル以外の文字情報が入るとしたらこんなかんじか、というのがざっくりわかったので細部を書き込む際の参考になりました。


4:納品(ご依頼から約1ヶ月)

21_04_06_hissyouzemi_クレジット

・窓のサイズはそのまま、犬を少し大きく
・窓の向こう(特に文字が被さる上部)を明るく
・差し込む光を派手に
(文字があまり被らないだろう右側の窓枠側面が明るいピンクになったので、窓のぱっと見の印象はより広くなったかと)
・本や小物や出窓のクッションに彩りを加える

・ドーナツから右側のクッションあたりをより暗く落とせば
 文字を置ける範囲はさらに広がります

青紫色の陰の印象に負けないよう、やわらかな光を感じられるよう意識しながら描きました。
場合によってはドーナツやマグカップのあたりに文字が被っても(何か細々とした物が置いてあることだけ伝われば)いいかなとも思っていましたが、特に修正もなくそのまま使っていただけました。

5:完成

030-CovA-Nyukou_210426サイズ合わせ_クレジット

ミントグリーンが爽やかです!
入り組んだ絵を描くときは(上に載った文字がちゃんと読めるように)色数が多くなりすぎないよう気をつけているのですが、デザイナーさんが仕上げられたものを拝見すると「なるほど、こんな組み合わせをすると映えるのか」とハッとなります。
実物も発色が綺麗。
ちなみに写真では見えないけれど、背表紙は濃いブルー→ミントグリーンのグラデーションカラーを敷いています。これは今までにはなかったアレンジだそう。

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↑令和2年度(右)は屋外から見た構図・3年度(左)は屋内から見た構図で、カラーリングなどもろもろ対になっています。

2020_04_10_zemi_クリッピング_クレジット

また青年が手を振る窓の向こう、空中廊下を歩きながら手を振りかえしている女性。実は令和2年度の真ん中にいる女性と同一人物という設定です。
よーく見たら手を振りかえしてるな、とわかる程度のサイズなので自己満足ですが。
本書を手に取る人には「勉強中の青年が外の世界(将来)に目を向けている」というイメージが伝わればそれでいいかな、というかんじです。

今回もとても楽しく描けました。
二十歳そこそこの頃はこんなふうに物がギュッとひしめいた部屋に憧れていたなぁなどと思いながら。
ありがとうございました!


サポートしていただいた売り上げはイラストレーターとしての活動資金や、ちょっとおいしいごはんを食べたり映画を見たり、何かしら創作活動の糧とさせていただきます。いつも本当にありがとうございます!!