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教科書『新しい国語』装画-メイキング

小学校5年生・6年生の国語の教科書の装画を担当いたしました。

令和6年度版『新編 新しい国語 五』
令和6年度版『新編 新しい国語 六』

刊:東京書籍
使用期間(見込み):2024年4月〜2028年3月


今作は、5年生・6年生の表紙を縦に並べると一枚の絵になる、という仕掛けになっています。


1:ご依頼

B5の装画を2冊ぶん

・5年生・6年生でストーリーの繋がりを持たせたい。
 子ども達が見つけたり気付いたりして楽しめる仕掛けが望ましい。
共通するモチーフとして「葉っぱ」「木」を入れる。
 リアルな世界というよりは想像の世界・ファンタジー感を出す。

5年生:子ども達の内面の成長を表現する。
6年生:広い世界(社会)・未来に向き合い、歩き出していく子どもたちのイメージを表現する。

キャラクターは小さく控えめで、「不思議な世界」を描いてほしい…というかんじのオーダー。ざっくり「6年は青っぽく、5年はナチュラルカラー(自然な緑)」というイメージだったようです。
また、ご依頼の決め手は小説『この本を盗む者は』装画だったそうで。

↑のイラストはかなりダークな色合い・雰囲気だったので意外でした。
こちらで「全体の構成や奥行き感、立体感に魅力を感じた」とのこと。
これを踏まえて、教科書らしい明るさ・軽やかさを演出していきます。

・教科書の手引きに登場するキャラクター(男子2人・女子2人)を入れる。
教科書を使う子ども達が「表紙のキャラと中のキャラが同じだ」と発見して面白がれるように、どことなく同じキャラっぽく見せる。

事前に各学年の手引きキャラクターの画像をいただき、参考にしながら描きました。
(「全くの同一人物には見えなくてもかまわない」とのことだったので、装画のキャラは髪型は同じでも服装は違っていたりします)


2:アイディアスケッチ(zoom打ち合わせ)

「5年・6年で繋がりを持たせたい」とのことだったので、2冊を並べると1枚の絵になる…というご提案をしました。

横並び案も作ったけれど、こちらは没。
「積み上げた知識が大樹になり、その上に乗れば遠くまで見渡せる。どこへだって行ける」というイメージを気に入っていただき、縦構図が採用されました。



3:ラフスケッチ

フィードバック

5年について
・遠景の木を「本のタワー」に変更
・「本から生えている草」はナシ(荒廃したイメージになるので)
木そのものを図書館にする

6年について
・真ん中の男子と、左のおさげ女子の位置を入れ替え
 (服の色はそれぞれの位置の色そのまま)
・中央の女子がタブレット端末で、タッチパネルで指を走らせてるかんじに
・子供たちの髪の黒などと、葉っぱの青がなじみすぎないように

全体に「青い鳥」を登場させ、裏表紙にも繋がりを持たせる

修正ラフ

ご依頼時点では手掛けるか未確定でしたが、途中から裏表紙のカット制作も並行して行いました。こちらも「葉っぱを栞にして挟んだ本」「UFO」などの変遷を経ています。

何回かラフを重ね、
「青い鳥」を象徴的なモチーフとして表紙・裏表紙に盛り込みました。
「光」を感じさせようとすると「影」が自然と濃くなってしまうので、全体を明るい印象にしたままバランスを取るのが難しかったです。
それと5年生→6年生の境界で緑→青のグラデーションを、それぞれ単体で見た時に違和感が無いよう調節するのも地味に大変でした。


4:納品

さてこれで完成…かと思いきやもう一仕事ありました。

「女の子が赤い服を着ているのは、 ジェンダーステレオタイプを感じさせて配慮に欠けるのではないか 」

とのご意見が、社内の検討の場で出されたとのことで。
最初のラフで、私が真ん中の男子に強めのピンクを着せたのは
・「ピンク=女子」のステレオタイプを払拭したい
・青っぽい背景の中、一番目立つこの人物は強めのピンクが映える

というのが主な理由でした。
なので赤・ピンク系を纏う女子を避けすぎるのもどうなのかな〜という思いもあったのですが。
・5年の方にピンク(色合いは違うが)を纏う男女がいる
・6年のおさげの女子は「丸っこいトップスにショートパンツとレギンス(女子っぽい格好)」である
 ←(これはラフ修正の際、自主的に変更した部分であり私の中のステレオタイプの反映でもある)
など、あらためて考えるとどれを優先するのが正解なのか、いや正解なんてないよな〜この教科書が実際に使われるのはイラストを描いた数年後だし、その頃にはまた状況も変わってるだろうな〜と思考がうろうろ。

おさげ少女の服の色・柄を何パターンか作り、
最終的に「無地で濃いめの黄色」が採用されました。

修正後

(実はちょっとずつ全体の色調整もしている…がもはや自分にしかわからない間違い探し)

納品後に大きな修正の必要は無いように、ラフチェックですり合わせをしていますが、時にはこういうこともあります。
(とは言え実際に仕上がってみないとわからない領域もあるので、良識の範囲内なら納品後の微修正に対応はいたします。納品から長く時間が経ってから先方の都合で修正、という場合は追加料金が発生しますが)
今回は意図せぬ修正作業でしたが、しっかりと納得いくまで意見交換ができたので禍根はありません。
実際に現場で働いていらっしゃる方々と私では見える範囲が違うでしょうし、今回はプロのご判断にお任せしました。


5:完成

面白がってもらえたらいいな〜

見本誌をいただくと「ああ、本当にできたんだなぁ…」と思います。
実際は私が納品した後も印刷でイメージ通りの色を出すための調整だとか、さまざまなご苦労があったそうで。頭が下がります…

今回、
「子どもたちの髪色にバリエーションがついていて、絵のなかで自然に馴染んでいるのが良い」
とのお言葉もいただけました。
最初のzoom打ち合わせで「肌の色とかもちょっとずつ変化つけてみたいです〜」とお伝えしていたのですが、全体を明るくしていくと微妙なニュアンスが飛んでしまうのでこれがなかなか難しく。さまざまな兼ね合いの中で、髪色はさりげな〜くバリエーションが出せた感じです。
ちょっとずつでも、多様なこどもたちに寄り添える表現ができるようになっていったらいいなぁと思います。

よろしくです〜


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